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[日販商品データベースより]
肺癌は,本邦において長らく部位別癌死亡数1位という不名誉な位置を占めている。しかし、部位別年齢調整死亡率では1995年以降低下傾向が続いている。これは、肺癌診療が確実に進歩していることを意味する。その重要な第一歩は、2002年に上皮細胞成長因子レセプターチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が承認され、EGFR遺伝子変異発見を契機としてゲノム医療の先駆けとなったことである。
その後、様々な遺伝子変異が続いて発見され,多数のチロシンキナーゼ阻害薬が開発された。一時は、遺伝子変異→シグナル依存→分子標的治療薬というシナリオで治癒が得られるのではないかと期待されていた。しかし、10年以上の臨床経験でわかったことは、耐性クローンが必ず現れ治癒に至ることはないという事実であった。がん細胞は絶え間なく遺伝子変異を集積し、進化の系統樹で示すことができるヘテロなクローナリティを獲得する中で、耐性という形質を有するクローンを生むことを、私達は理解した。
次の大きな変革点は免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブの承認である。ニボルマブの奏効率は必ずしも高くなかったが、有効例の奏効期間が長く、tail-plateauと呼ばれる特徴的な生存曲線を示すことが明らかとなった。さらに、有害事象などで治療中止しても、無増悪のまま長期生存する症例が認められ、進行期肺癌でも治癒に近い効果を得られるという驚くべき事実が明らかとなった。しかし残念なことに、どのような患者が長期生存を得られるのか、その確率を上げるために何をすれば良いのかほとんどといって良いほど理解されていない。
チロシンキナーゼ阻害型分子標的治療薬の臨床と基礎から、私達は癌という存在を遺伝子変異に基づいたヘテロな集団として理解するようになった。免疫は、“がん免疫編集理論”に示されるようにがん細胞の遺伝子変異量を編集できる唯一のシステムと言える。ゲノム医療として進むがん細胞の遺伝子変異理解と抗腫瘍免疫の理解は、肺癌治療発展の両輪と言えよう。
本企画が、がん細胞の本質である遺伝子変異を中心とした研究の成果から、肺癌の細胞生物学を紐解き、抗腫瘍免疫のエキスパートからがん細胞はどのようにして免疫に制御されるかを語って頂くことで、がんゲノム医療と免疫プレシジョン医療の接点を探り進行期肺癌治癒の道を考える一助となれば幸いである。