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異性愛の物語の裏に潜む、女性たちの豊かな感情世界。スクリーン上で交わされるまなざしに秘められた愛と憎しみ。六つの映画作品から、隠された同性愛的欲望や家父長制への抵抗を解き明かす。
序章 戦後文芸映画と女性たち
第一章 覆われた欲望 『お遊さま』(溝口健二監督〔一九五一〕)における姉妹
第二章 母性幻想とレズビアン感性 『挽歌』(五所平之助監督〔一九五七〕)と『女であること』(川島雄三監督〔一九五八〕)をめぐって
第三章 「家」を出る女たち 『香華』(木下恵介監督〔一九六四〕)における母娘
第四章 女を見る女のまなざし 『華岡青洲の妻』(増村保造監督〔一九六七〕)における嫁姑
第五章 女性スター共演の力学 『千羽鶴』(増村保造監督〔一九六九〕)における女同士の関係
終章 日本文芸映画における女性の欲望のあり方と女同士の絆
異性愛の物語の裏に潜む、女性たちの豊かな感情世界
日本映画の黄金時代である1950年代から60年代、女性観客をターゲットに量産された文芸映画。これらの作品では異性愛を中心に物語が展開する場合にも、母娘、姉妹、友人、恋敵など、さまざまな形の女性同士の関係がきめ細かく描かれ、そこには新しい時代の女性の生き方が提示されていた。
この時期の文芸映画において多様な女性同士の関係が表現されたのはなぜか。その女同士の関係にはどのような特徴があったのか。家父長制の下で女性同士が結ぶ連帯、隠蔽された女性の同性愛的な感情、女性スターのペルソナが持つクィア性、スター女優共演のシステム――さまざまな観点から映画テクストを分析。6本の文芸映画『お遊さま』(溝口健二監督〔1951〕、谷崎潤一郎原作)、『挽歌』(五所平之助監督〔1957〕、原田康子原作)、『女であること』(川島雄三監督〔1958〕、川端康成原作)、『香華』(木下惠介監督〔1964〕、有吉佐和子原作)、『華岡青洲の妻』(増村保造監督〔1967〕、有吉佐和子原作)、『千羽鶴』(増村保造監督〔1969〕、川端康成原作)を中心にスクリーン上で交わされる女性たちのまなざしを追い、これまで十分に論じられてこなかった「女同士の絆」に光を当てる一冊。