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難民問題、クリミア危機、ブレグジット、ロシアのウクライナ侵攻…。幾多の困難によって岐路に立たされる欧州統合の限界を、核不拡散政策、対テロ政策、エネルギー安全保障といった外交・安全保障分野の諸政策から考察。中東和平問題、対中外交、北欧やアフリカの安全保障との関係など、その外縁からも議論し、欧州統合の行く末を考える際に必要な判断材料を提供する。
序章 外交、安全保障政策から欧州統合を読む
第1部 外交政策から読む欧州統合(EU拡大プロセスの再検討―規範の伝播を目指す取り組みを通して;英国にとっての欧州統合とは何か―第一次EURATOM加盟申請に至る外交過程の考察から;欧州統合と中東和平問題―EUの「差異化戦略」とイスラエルの対応を中心に;EUと西サハラ問題―試される規範的パヲーの規範意識;AU・EUサミットに見るアフリカ安全保障―「EU研究」と「AU研究」の視角から;政治と経済の間で揺れる中・欧関係―中国と欧州の包括的投資協定の原則合意を中心に;EUにおける難民受入の可否をめぐる議論の諸潮流―義務としての「難民庇護」と安全保障政策のはざまで)
第2部 安全保障政策から読む欧州統合(欧州統合と核兵器―対イラン外交における共通の核不拡散政策の形成;欧州安全保障と核抑止―高まるロシアの核の脅威と欧州の戦略的自律;EUにおけるテロ予防のローカル・ガバナンスの可能性と課題―オランダの取り組みを事例として;東欧諸国の市民ボランティア武装組織・パラミリタリー―バルト三国とポーランドの事例から;欧州のエネルギー安全保障―EUの戦略とラトビアの対ロシア依存問題;北欧防衛協力(NORDEFCO)の進展の要因とその役割についての考察)
難民問題、クリミア危機、ブレグジット、ロシアのウクライナ侵攻……幾多の困難によって岐路に立たされている欧州統合の限界を、核不拡散政策、対テロ政策、エネルギー安全保障といった外交・安全保障分野の諸政策から考察。中東和平問題、対中外交、北欧やアフリカの安全保障との関係など、その外縁からも議論し、欧州統合の行く末を考える際に必要な判断材料を提供する。
本書は、欧州の外交および安全保障の観点から、EUを中心とする欧州統合への理解を深めようとする試みである。冷戦期に本格的に開始された欧州統合は、欧州経済共同体(EEC)に象徴されるように経済分野の統合を中心として進展し、外交・安全保障分野の統合は、各国の抵抗が強かったために遅れていた。冷戦後にEUが発足して以降、同分野での統合が徐々に深まりつつあるが、依然として個別の政策ごとに統合には濃淡の差が存在する。それだけに核兵器、エネルギー、人権外交といった個々の具体的な政策や局面に焦点を当てて分析を加えることが不可欠であり、その作業を通じて本書は、ポジティヴに語られることの多い欧州統合が、いかに加盟国内の分断と、域外国の反発を生じさせてきたのかといった、欧州統合の負の側面をも照らし出すことを目指す。
各論では多彩な執筆陣のそれぞれの専門性を活かして、外交・安全保障分野の具体的な政策分野に焦点を当てる。第1部の外交分野では、英国および東欧諸国を対象とする加盟国の拡大過程、人権外交と対中外交、難民・移民政策、西サハラ独立問題への対応を取り上げる。そこに一貫して存在しているのは、欧州統合過程で培われてきた人権・基本的自由・民主主義などの「価値」を対外的に投射しようとするEUの姿勢である。「規範的パワー」と称されることも多いEUのこうした姿勢は、加盟国がそれぞれ抱える利害関係との間に葛藤を生じることが少なくない。たとえば経済的につながりが大きい中国に人権面での懸念から制裁をかけるといった行動には、このような葛藤が最も明確に現れていると考えられる。このように第1部では、EUと加盟国との間、そして外交の対象との関係、政策の過程を分析することによって、欧州統合の理想と現実を浮き彫りにすることを目指している。
第2部の安全保障分野では、核不拡散政策、対テロ政策、北欧との安全保障政策の異同、アフリカの安全保障への関与、徴兵問題、また、直近のロシアのウクライナ侵攻により注目が高まっているエネルギー安全保障を取り上げる。EUは安全保障分野での取り組みを増加させているが、集団防衛の機能は備えておらず、基本的には米国のジュニア・パートナーの位置づけは変化していない。対テロでは、多国間の連合であることから、情報の共有や国境管理など様々な点で弱点を抱えてもいる。他方で、核不拡散政策の対イラン交渉で米国と異なる姿勢をとって一定の影響を与えたと考えられるなど、独自性を発揮している場面も見受けられる。これらの論考より第2部では、安全保障分野における欧州統合の現実と課題、並びに各国の安全保障への影響につ…