[BOOKデータベースより]
神話の舞台でもある「聖地」の研究を続ける文化人類学者と、人間の無意識からの声に耳を傾け続ける臨床心理学者。異なる二つの領域の学者が、必然のようにして出会い、刺激に満ちた心躍る対話が、始まった。
第1部 精神の起源とこころの発生(現象学との出会い―エリアーデからユング、ショーレム、コルバンへ;もう一つの潮流、構造主義―レヴィ=ストロース、ラカン;聖地の構造―『アースダイバー神社編』;幻の大陸スンダランドとアボリジニの宗教 ほか)
第2部 聖地の層構造とこころの古層(宗教以前・象徴以前;古層からの距離と象徴性)
第3部 討論(岩―洞窟で行われていた秘密の祭儀、人間の最も根源的な宗教体験;三元論―「第三のもの」とは何を示すのか?;「3」について―夢に現れる「3」;自然ということ―世界の成り立ちの基本は「母と子」 ほか)
思想家・文化人類学者である中沢新一氏と臨床心理学者・ユング派分析家である河合俊雄氏が日本ユング派分析家協会の研修セミナーでおこなった講演と、その後のディスカッションをまとめたもの。
中沢氏は、「人間の精神も自然が生み出したものであり、自然に包摂されている」という考えのもと、地形や歴史を調査することで人間の精神活動のきわめて深い場所の構造を探求しようと「アースダイバー」という活動を続けてきた。そして日本各地の「聖地」を調査することで得た成果を、2021年春に『アースダイバー神社編』という本にまとめ上げた。
「聖地」とされる地の特殊な自然地形、そしてその上で展開されてきた精神活動や歴史とのつながりを探ることで中沢氏に見えてきた精神の層構造は、河合氏にとっては、心理療法のなかで感覚的に捉えてきた、象徴だけでは捉えきれないこころの層のありようと、見事に符号し腑に落ちるものだという。
*
本書は、第一部の中沢氏の講演から始まる。人類に「こころ」というもの、意識というものがどのようにして生じてきたのか、また、旧石器時代をへて新石器時代へと移り変わるなかで、人間と自然との関係はどのように変化していったのか、そしてその過程で「象徴」というものがどのようにして生まれ、神概念と結びついていったのか、など、人類の意識の誕生とその変遷を自然(=ジオ)と歴史とを絡めながら語りかける。
第二部は、河合氏の講演で、中沢氏の本『アースダイバー神社編』を分析心理学者の視点から詳しく読み解いていく。項目やテーマごとに取り上げられた内容が、こころの古層との関連やユング心理学との比較をまじえて語られるうちに、二つの学問がしだいに共鳴しはじめるのがよくわかる。
最後に第三部では、第二部の河合氏の講演内容を受けて、中沢氏が追加や補足のコメントを付し、軽妙でありながら該博な知識と考察に裏付けられたディスカッションが繰り広げられてゆく。
*
これから二人の学者が、こころの古層について共に研究し追及してゆくことで、こころ(=精神)とは何か、人間とは何かという本質的かつ哲学的な問いに、これまでにはなかった切り口の答えが見えてくるかもしれない。そしてそこから、われわれがこれから先の時代を生き抜いてゆくための、新たな学問への地平が啓かれてゆくに違いない。
本書は、その可能性へと踏み出した第一歩ともいえるだろう。
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