- スタジオジブリの想像力
-
地平線とは何か
講談社
三浦雅士
- 価格
- 2,750円(本体2,500円+税)
- 発行年月
- 2021年08月
- 判型
- 四六判
- ISBN
- 9784065241325

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[BOOKデータベースより]
西洋ルネサンス絵画と日本アニメは視覚芸術における空前の事件である!なぜ宮崎駿の作中人物は空を飛び、火と接吻するのか?スタジオジブリを人類史のなかに位置づける、壮大にして野心的な試み。『熱風』の連載、待望の書籍化!
第1章 絵より先にアニメがあった
[日販商品データベースより]第2章 なぜ宮崎アニメでは空を飛ぶのか
第3章 飛翔する力がジブリを創った
第4章 地平線という主人公―ギブソンと宮崎駿
第5章 恋愛の地平線―「天空の城ラピュタ」
第6章 地平線と火の接吻の物語―「ハウルの動く城」
第7章 内面空間としての地平線―「千と千尋の神隠し」
第8章 地平線の比較文学―フォード・黒澤・宮崎駿
……アニメーションの魅力を全面的に開花させたのが、高畑勲さん、宮崎駿さん(以下敬称略)といった人々によって担われたスタジオジブリの作品群であったと、私は考えています。高畑や宮崎といった作り手の仕事の素晴らしさについて私はこれからお話ししたいと思っているわけですが、そのためにはまずアニメーションそのものの魅力について語る必要があります。
(中略)
ルネサンス絵画の本質はアニメだということです。
ボッティチェリの『春』でも『ヴィーナスの誕生』でもいい。たくさんあるラファエロの聖母子像でも『アテネの学堂』でもいい。登場人物はすべて動き出そうとしている。静止画でさえ、いまにも瞬きしようとしている。これはもう、ルネサンス絵画の本質というよりは西洋絵画の本質で、ボッティチェリだろうがラファエロだろうが、レオナルドだろうがミケランジェロだろうが、さらには時代下ってカラヴァッジョだろうが、あるいはレンブラントだろうがフェルメールだろうが、すべてそうです。
ということは、彼らの絵をもとにしてアニメが作れるように出来ているということです。原画もキャラクターも台本も全部そろっている。ボッティチェリ作画、高畑勲監督『春』なんてことがありえたということです。それこそが、イタリア・ルネサンスの魅力の核心であると考えたほうが、よほど分かりが早い。実際、コマーシャル・フィルムなどで、そういうことを試みている例ーーたとえば優しくウィンクする『モナ・リザ』ーーが少なくないわけですが、コンピュータ・グラフィクスの驚異的な発展がこれからどんなことを可能にするか、空恐ろしいほどです。ルネサンス絵画のすべてが動き出すことになるかもしれないわけですから。
(中略)
……その眼で眺め直してみると、ゴンブリッチが援用したジェームズ・J・ギブソンの知覚論や、ルドルフ・アルンハイムの視覚論、エルンスト・クリスのカリカチュア論を含む精神分析的美術論などが、アニメーション探究に役立たないはずがありません。漫画論ーーとりわけ少女漫画論、劇画論ーーについてはもちろんのことです。
西洋ルネサンスとアニメ・ルネサンスを雁行する視覚芸術史上の事件として眺めるというこの考え方は、さらにいろいろ興味深い示唆を含みます。たとえば前者においてはキリスト教が占めた位置を後者においてはエコロジー(生態学)信仰が占めています。終末論として似ているのです。
高畑の作品も宮崎の作品も、大略、このような視点から眺められなければならないと私は思っていますが、しかしそれだけではもちろんありません。
(第一章「絵より先にアニメがあった」より抜萃)