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[日販商品データベースより]
人類が疫病と闘いながら文明を築いてきた側面について,歴史学は十分顧慮してこなかった。1万1千年前のメソポタミアでは野生動物の家畜化に伴い疫病が発生し,アテネでのペストの流行はギリシア文明を衰退させ,ビザンツ帝国でのパンデミックは古代ローマ終焉の要因となり,14世紀の黒死病によりヨーロッパ社会は根本的に変容した。南米ではスペイン人がもたらした疫病が先住民を死に追いやった。
第T部「終末に向きあう」では,疫病による社会的危機が生み出す終末意識を検討する。第U部「疫病とその影響」では,14世紀に大流行したペストがその後の西欧世界に与えた影響を分析し,V部「他者への抑圧」では西欧の近中世世界で,社会的危機に際して迫害され排除されたマイノリティの問題を扱う。第W部「境界を乗り越える」では,西欧とロシアの修道院や中南米のイエズス会布教区で,疫病が修道士や信徒の信仰のあり方に衝撃を与え,彼ら自身が霊的な再生をいかに目指したかを考察する。
産業革命以来,物質的欲望を追求してきた「近代文明」が限界に直面し,さらに世界がコロナ禍にあって,我々は文明の「境界」を越えて新たな文明へと「再生」できるのか。そのような問題意識から,本書はヨーロッパ中近世史の研究者が専門領域の事例を通して,疫病による社会的,宗教的な影響や伝承を実証的に考察した他に類のない本格的業績である。