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[日販商品データベースより]
【あとがきより】(抜粋)
本書所収の主要な論文は、唐律疏議と令集解とを研究の対象として多く扱っている。それについて、
ここに一言しておきたい。令集解(令義解をも掲載)という法書は、明法家による古代律令の法解釈や
法適用などの法実務の実態が具に記されており、前近代の日本における法学の内容やその性格を知るこ
とのできる貴重な資料、いわばその宝庫である。しかし、その伝本の文には脱落、錯簡、誤字、衍字が
多く、後の追記や書入れなども混じっており、学説の引用関係を示す構文もまた複雑であって、その内
容を文理的に正しく読み解いて行くのは決して容易ではない。更にそこから令集解の内容を法学的に分
析し、解明する為には、余程の時間と労力とを必要とする。
筆者も、その読解に自信がある訳ではないが、ただ令集解の解読に当って一つだけ言えることがある
ように思われる。筆者は大学院在学中の八年間、森鹿三先生の東洋法史の演習に参加したが、そのテキ
ストは唐律疏議であった。筆者が令集解を読み始めたのは、上京してかなり後のことであったが、森先
生の演習において、この唐律疏議を読んでいたことが、実は令集解の内容を理解するに当って、少なか
らず役立ったのである。森先生の学恩に深く感謝したい。
それでは何故、唐律疏議を読むことが令集解の理解に役立つのか。考えてみれば、それは至極当然な
ことであって、唐律疏議は唐の律疏の内容を今に伝えている書であるからである。唐の律疏は、周知の
如く戦国時代以来の多年にわたる中国法律学の伝統の上に、丹念に練り上げられた精華の結晶である。
この唐の律疏によって日本人は始めて立法や法運用に関する合理的な思考を学びとり、それを身につけ
ることができたのであって、令集解所収の諸家の学説も多かれ少なかれ、すべてこの律疏によって具現
化された唐の律学がその基礎にあったといってよい。(中略)
そうすると、唐の律疏が学習された時代や令集解が成立した時代は八、九世紀のはるか古代ではあるが、
当時の律令法学がその後の日本の法制史、法学史、法思想史、法生活史などに及ぼした影響は、実に計
り知れないものがあるといわなければならない。