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[BOOKデータベースより]
追い求めた理想社会とは。自律的かつ創造的な市民共同体を求めて、著者自身の歩みとともに、現代を問い直す或るアナキストの長大なモノローグ。遺稿となった未完の小説。戦後日本の歩みを自分史に重ねて再構築する試み。
[日販商品データベースより]七十代半ばにぼくは、フランスのある雑誌のために、旧知の若いフランス女性から、インタビューを受けた。フランス側は、フランスで高名だが異端の思想家であるカストリアディスを、ぼくがほぼ独力で日本に紹介していること、彼についての世界で最初の本をぼくが書いたこと、それが母国での類書の登場より十年以上も早かったことに、何か不可解なものを感じたようで、ぼくのこれまでの歩みなどについて聞きたい、ということだった。
やがて、八頁をさいた掲載誌が送られてきた。一読して身が細る思いがした。もともとぼくは、インタビューや対談を好まなかった。話すことは、書くことよりもずっと雑になるからだった。しかもこんどは外国語で話したから、雑の度合いがひどすぎた。
ぼくは、もっと正確に、もっと十分に、自分を語らないではいられなくなった。
と同時に、かねてから求めていたもの、小説的な要素、歴史的な要素、評論的な要素を混在させた表現形式が、インタビューに答えるという方法でなら、可能だとも気づいた。
そこでぼくは、今回の記事を担当してくれた若い女性相手に、架空の長い長いインタビューをしてみることにした。
それは、ぼくが体験したことを軸にしながら、われわれがどんな時代に生きているのか、とらえ直す試みだった。(巻末所収の著者による「本書の概要」〈一章〉より)
著者は、少年期に敗戦を迎え、日本社会と人々の豹変ぶりに衝撃を受け、「自分にとって大事なことは、どうやら自分で考えて自分で見つけるほかないらしい」と思い定め、旧制私立中学を十四歳で離れ、社会変革への道と、個人個人が自分の世界を構築していく在り方を模索し、やがてフランスの思想家のダニエル・ゲランやコルネリュウス・カストリアディスにたどり着きます。本書は、生涯をかけて思索を重ねてきた著者の自伝的小説であり、人間一人ひとりが主体的に生きることの方法を問い続けてきた思想・哲学の書でもあります。全十章、エピローグまで構想されたものの、九章までで途絶。未完の書とはなったものの、遺されたこの大部の本書は、生きることの方向性を見失いつつある多くの現代人に、その手がかりを与えてくれる1冊です。