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[BOOKデータベースより]
シンパシー(共感)に乏しい人間の描写からの考察。エリオットが文学様式としてのリアリズムを採用する目的は、登場人物への理解を深め、仲間としてのシンパシーを高めることにある。リアリズムの要件に立ち返って作品を通時的に眺めることにより、作家の道徳観が成熟するとともにリアリズムが進展してゆく過程を検証する。
第一章 エリオットの小説のリアリズム
[日販商品データベースより]第二章 エリオットの道徳観とシンパシーとリアリズム 「ジャネットの悔悟」における比喩表現を例として
第三章 語り手の心の鏡に映らないヘティ 『アダム・ビード』のリアリズム再考
第四章 洪水の結末とシンパセティックなトム 『フロス河畔の水車場』におけるリアリズムの進展
第五章 シンパシーとシンパシーの欠如の交差 『ミドルマーチ』における道徳観の成熟とリアリズムの進展
第六章 『ダニエル・デロンダ』におけるモダニズム的手法の採用 人間の根本的善性への信頼の揺らぎ
ジョージ・エリオットのリアリズムの進展と作者自身の道徳観の成熟の関係を探る。ジョージ・エリオットは道徳の基礎にシンパシー(共感)を置き、彼女のリアリズムの目的は、読者の登場人物への理解とシンパシーを高めて「人類の団結」を図ることであった。本書は「リアリズム」を、「登場人物の心理や外部事実の合理的で詳細な記述があること」と「物語中の出来事の蓋然性が高いこと」という基本的要件で捉える。そして物語中のシンパシーに乏しい人間の描き方のリアリズムの進展に焦点を当て、その背後にある作者自身のシンパシーの対象が拡大していることを読み取る。作品のリアリズムの進展は作品から見て取ることができ、また作者のシンパシーの対象の広がりはシンパシーに乏しい人間の描写に顕著に表れるからである。エリオット作品のリアリズムを通時的に論じる場合、初期作品はリアリズムに沿っているが中期作品以降は「道徳的寓話」であると見なすのが、エリオット存命の時代から20世紀半ばまでの定説であった。1948年に発表されたF・R・リーヴィス『偉大なる伝統』以降は、エリオットの後期作品が19世紀イギリスのリアリズム小説の傑作と見なされるようになった。しかし作品に登場するシンパシーに乏しい人物は、相変わらず個人もしくは社会にとって一律に有害であると考えられ、彼らの被害者的心理や、個人もしくは社会に対する影響の吟味はなされなかった。本書は従来の見方とは異なり、シンパシーに乏しい人物が、家族や社会にとって有害で追放されるか改悛させられねばならない存在から、後期作品においてシンパシーに乏しいままで家族をより大きな絶望から救うという肯定的価値をもつ存在へ、あるいはその被害者的心理も描かれる存在へと変化しているというリアリズムの進展をテキストの「描写」および「物語の時代背景」から検証する。このことは同時に、作者のシンパシーの対象の拡大を示している。