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時は江戸、浅草は浅草寺の境内に、おおきな人だかりがありました。なにやら、昨晩から人がたおれていて、もう息をしていないといいます。そこに通りがかったのが、ひどくそそっかしい八五郎という男。倒れたその人を見て、長屋のとなりに住んでいる熊五郎に違いないと思いあたります。「今朝も会ったばかりなので、ひとまず当人を連れてきます!」きのうの晩から倒れている人と、朝に会えるわけもありません。それなら人違いに決まっているのですが……、しかしそそっかしい八五郎、そう諭す人の声にも耳をかさずに、熊五郎の家に走ります。そうして連れてこられた熊五郎ですが、これがまた度を越してそそっかしいものだから、話はどんどんややこしくなっていって————日本の伝統芸能「落語」を、味わいそのままに絵本で楽しめる「柳家小三治監修 本格らくごえほん」シリーズ。今回の題目は「そこつ長屋」です。軽はずみ、そそっかしい、という意味の「そこつ」。ひとりでも物語をかき回してしまうこの「そこつ者」がふたりも出てきてしまうのだから、さあ大変!おまえは死んだのだと熊五郎に言い聞かせる八五郎。どうも死んだ心地はしないなあと納得いかない熊五郎。「はじめて死んだくせに、死んだ心地がわかるもんかい!」そこつ者が、そこつな理屈で、そこつ者を説得する名場面!バカバカしいとは思いつつも、妙に納得させられるところもあるのがよけいにおかしく聞こえます。いきだおれの遺体をめぐる演目ではありますが、あくまで小道具的にドライな扱われ方をしていて、恐ろしさはありません。落語入門にも最適な同シリーズ。今作は純粋に「笑える落語」!トンチンカンな「そこつ」ワールドにお腹をかかえて、落語の真髄を味わってみてください。
(小説家 堀井拓馬)
登場人物を一人でこなす落語家の技を、
ページごと、絵と文字の構成で表現するなんて、驚きです。
まめであわてんぼうの長屋の八つぁん、浅草観音様の前、
人だかり中の行倒れを、同じ長屋の仲良しのクマだと気づき、
長屋にとって帰ってそいつを連れてくるから
本人に確かめさせると言う、なんとも間の抜けたお話。
上から下から斜めから、正面に後ろに、
まるで寄席客席から噺を聞いているかのように楽しみました。
読む人も聞く人、見る人も、みんなが楽しめるでしょう。
野村画伯に、感謝。(もゆらさん 60代・神奈川県 )
【情報提供・絵本ナビ】