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[BOOKデータベースより]
十一通の絵手紙をもらったのが最初だった。直木賞受賞、強迫神経症、お遍路、不意の死別。異色の私小説作家を支えぬいた詩人の回想。
1(絵手紙;出会いまで;『鹽壷の匙』のころ;結婚まで)
[日販商品データベースより]2(千駄木;宴;低迷運;狂気)
3(『赤目四十八瀧心中未遂』のころ;直木賞受賞・光と影;終の住処;けったいな文士)
4(南半球一周航海へ;初恋の人のことなど;お遍路)
5(異変;永訣)
6(墨書展)
この世のみちづれとなって――
十一通の絵手紙をもらったのが最初だった。
直木賞受賞、強迫神経症、お遍路、不意の死別。
異色の私小説作家を支えぬいた詩人の回想。
【本文より】
長吉は二階の書斎で原稿を書き上げると、それを両手にもって階段を降りてきた。
「順子さん、原稿読んでください」とうれしそうな声をだして私の書斎をのぞく。
私は何をしていても手をやすめて、立ち上がる。食卓に新聞紙を敷き、
その上にワープロのインキの匂いのする原稿を載せて、読ませてもらう。
(中略)
それは私たちのいちばん大切な時間になった。原稿が汚れないように
新聞紙を敷くことも、二十年来変わらなかった。相手が読んでいる間中、
かしこまって側にいるのだった。緊張して、うれしく、怖いような
生の時間だった。いまは至福の時間だったといえる。 (本文より)