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[BOOKデータベースより]
1980年9月。その男は北京から帰ってきた。狼狽する野坂参三と幹部たち。党籍を離れず夫を信じつづけた妻と、おぼろな父の記憶を抱えて入党した息子は事態にどう処したか。また、その後、九年の歳月を生きた男と家族との日々、不自由な眼に映じ、心中に去来したものとはなんだったのか…。30年の空白を乗り越えふたたび結びついた家族の雪冤の記録。
第1部 父の帰還(二十七年の空白の後で;帰国後の九年間)
第2部 母と息子(命がけで生きた母;伊藤律の息子として)
伊藤律(1913〜1989)は戦中・戦後の共産党史で謎に包まれた存在でした。曰く「生きているユダ」「革命を売る男」。しかし、それらは日本共産党中央や、尾崎秀樹、松本清張などが貼った誤ったレッテルでした。伊藤の次男の著者とその母は党籍を離れず活動を続けました。それがどれほど苦しいことであったか、ある世代以上の人には容易に推察できるでしょう。本書はイデオロギーと家族の絆が織りなすドラマなのです。
本書は30年の空白を経てふたたび結びついた家族の名誉回復、雪冤の記録であると同時に、「戦後」という時代の鮮烈な一断面を示すものです。
伊藤律(1913〜1989)は戦中・戦後の共産党史において重要な人物であると同時に謎に包まれた存在でもありました。「ゾルゲ事件」で処刑されたリヒアルト・ゾルゲと尾崎秀実逮捕の端緒をつくった男、徳田球一の懐刀として中国に密航し北京機関で辣腕をふるった男、共産党組織を敵に売り渡した革命の裏切り者……すなわち「生きているユダ」「革命を売る男」。
しかし、それらは日本共産党中央や、尾崎秀樹、松本清張などが誤った情報にもとづいて貼ったレッテルでした。冤罪だったのです。
伊藤律没後、21世紀の入って事実は次々と明らかにされました。ソ連邦の解体で極秘資料に光があてられ、仲間を売っていたのはじつは野坂参三のほうであったことが明らかにされるとともに、ゾルゲ事件の解明にも新たな進展がもたらされました。そしてもっとも多くの人に知られ、伊藤のイメージ定着に影響の大きかった松本清張『日本の黒い霧』(文春文庫)所収の「革命を売る男 伊藤律」の内容の問題点を版元の文藝春秋は認め、以下の対応を示すにいたりました。
・現行の文庫本は回収する
・新たな版では作品の歴史的位置づけ、時代の制約について、伊藤律回想録や朝日新聞の記事などから引用、スパイではないという証拠が出てきているという説明をし、伊藤律の冤罪を証明した『偽りの烙印』や『伊藤律回想録』等を参照してほしいという断り書きを添付する。
事実上の訂正と言ってもよいこの措置は各メディアに大きく報道されました。
名誉回復のために伊藤の妻と子どもは活動しつづけました。著者は北京まで父を迎えに行き、没するまで生活をともにしました。その母(伊藤の妻)は党籍を離れぬまま活動を続け、夫の冤罪を信じつづけてきました。それがどれほど苦しいことであったか、信念の行動であったかは、ある世代以上の人には容易に推察できることでしょう。
本書はイデオロギーと家族の絆が織りなすドラマでもあります。
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30年の空白を経て再び結びついた家族の名誉回復の記録。イデオロギーと家族の絆が織りなす「戦後」という時代の鮮烈な一断面を示す