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[BOOKデータベースより]
私は天丼にせよ、オムライスにせよ、最初にいつどこで食べたかを覚えている。そんな世代だ
官、財、学界が賠償を転機に大きく東南アジア進出に舵を切り、一方、バンドン・民族運動への共感を持つ若い潮流がアカデミズムの中に胎動していた。きなくさく、そして相当に胡散臭い東南アジア知識とは別に、時代の「要請」とは没交渉の東南アジア研究の流れが日本にあった。六〇年代〜七〇年代の東南アジア現代史はまるで走馬燈だ。瞬間の影絵を見ているだけでは走馬燈の思想は理解できない。
膨大なベトナム漢文史料のマイクロフィルム。この史料を読むのは間違いなく、世界で私が最初である。身震いするような思いで立ち向かった。妻と当歳の娘を横浜に残し、書籍を積んだトラックの助手席に積まれて、京都に旅立った。それは真剣な遊歴時代の開始だ。
三三歳の私は希望に胸をいっぱいにふくらませながら、タイの悪路を蹴散らしていった。それが最初の幸福すぎるくらいに幸福なフィールドの始まりだった。
高谷先生は答えた。五万分の一地形図にトレーシングペーパーをかけて、すべての情報を手写してごらんなさい、それが一〇〇くらいたまったらわかります。
確かに東南アジアには一つの文明がないが、代わりに東西六〇〇〇キロ、南北四〇〇〇キロにわたって文化的統一帯、「東南アジア文化」が連なる。
庶民と同じ目線から歴史を構成しなおしてみる。海と島、海とデルタ、森と水田、貴族と商人・農民がともにシェアしたはずの「歴史空間」を書きたかった。〔ほか〕