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[BOOKデータベースより]
時は江戸中期の1749年、備後の国三次の稲生家に化物騒動がもちあがる。連日連夜襲い来る途方もない妖怪たちに一人で立ち向かったのは、十六歳の武太夫であった。その顛末は驚嘆をもって世に迎えられ、平田篤胤をはじめ泉鏡花、折口信夫など、後に多くの心酔者を生む。本書はこの妖怪譚『稲生物怪録絵巻』を本格的に解読する試みである。自在な視点で日常と異界との裂け目をまさぐりつつ描かれる妖怪たちの肖像には、確かな息づかいが甦り、したたかな高笑が響いている。
稲生化け物騒動はじまりの事
怪火行灯より吹き上げ、あやしの水畳より湧く事
女の生首さかさまに出たる事
瓢箪の怪おりきたり紙の怪舞う事
蟹の怪、姥の怪相次ぐ事
退散の呪い効なく塩俵の怪出たる事
破邪の剣通じず頭割れの怪出たる事
すりこぎの怪、盥の怪出たる事
蟇、葛籠に変じたる事
天井より舐り婆下りたる事〔ほか〕