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[BOOKデータベースより]
最新の研究成果をもとに幼児教育史研究の新しい地平を拓く論考集。近世、近代の子育ての世界と幼児教育制度の確立の過程について、多角的な視点から描きだした23編の論考を収録。
第1部 伝統社会の子育てと近代の足音(日本列島の西と東―家と村の子育て;節句にみる子育て―健やかな成長をたくされた雛祭と玩具;歌舞伎役者に育つということ―江戸中期から後期に着目して)
[日販商品データベースより]第2部 海を渡る幼稚園―幼稚園の成立とその世界的展開(ドイツの幼児教育施設―託児所から幼児学校そして民衆幼稚園へ;イギリスのフレーベル運動と幼児教育の発展;アメリカにおける幼稚園の普及と展開―小学校教育との関係に着目して;日本における幼稚園教育の成立と展開)
第3部 保育の新潮流―ケアと教育の一体化と内容・方法の刷新(マーガレット・マクミランと保育学校;モンテッソーリ教育の設立と展開;保育所的保育施設の成立と展開―二葉幼稚園・保育園の動向に注目しつつ)
幼児教育の変革期に未来を拓く視座として。上巻は、近世・近代の子育ての世界と幼児教育制度の成立の過程を多角的な視点から描きだす。
子どもの歴史は、子どもと家族の歴史でもあって、社会史の与えたインパクトは大きかった。P.アリエスは産業革命を経た世界では、密度の濃くなった文化の伝達が次世代にとって抑圧的なプロセスに変化したこと、それを担うのは夫婦の親密な絆に裏打ちされた教育熱心な家族(近代家族=教育家族)であり、近代家族の形成は他方で学歴社会の形成と表裏で進んだことを描きだした。しかし1990年代以降の現代社会は、近代家族にも陰りが見え個々の家族構成員が独立性を強めている。これが教育や子育て意識をどのように変化させるのか、まだ変化の全容は見えないが、少なくとも男女共生社会は、子どもの権利を中心に据えた包括的な保育制度の普遍化を必要としている。幼児教育と家庭的育児、社会的保育はどこの国でも複雑な歩みをたどって今日の水準まで築かれてきた。その制度的な歩みを家族の変化に注目する社会史の視野からも考察している。
歴史学・歴史研究はこの半世紀、課題や方法論をめぐって大きく揺れ動いた。リン・ハントは、マルクス主義、近代化論、アナール学派、アイデンティティの政治の4つをあげ、「20世紀の支配的なパラダイム」は修復不可能なほどに地に落ちた。が、パラダイムを掘り崩してきた文化理論は、代替案の青写真を描くことなく構造的な弱点を露呈したと述べて、文化はコンテクストとして厚く記述されるべきというC.ギアーツを引用しながらサイコ・ヒストリーへの期待を述べている。家庭や保育室のなかで個々の子どもと大人、子どもたち同士の間で繰り広げられる文化創造の物語、ミクロヒストリーは、社会基盤との関係については種々の立場があるとしても、コンテクストとしてていねいに追求さるべきという点は広く理解を得られるであろう。
折しも「明治維新百五十年」が議論された。教育史は近代化に伴う制度の輸入的性格や教育と子どもの生活基盤との乖離の克服をしばしば課題としてきた。が、今日では生活そのものの変質をも課題化しなければならない。そのような長い視野で子育て、幼児教育を考える一石になればと念願している。
(本書「はじめに」より一部を抜粋)