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ピックアップ!

勉強も仕事も時間をムダにしない記憶術

フォトリーディングができなくても!

『勉強も仕事も時間をムダにしない記憶術』 / 山口佐貴子 / B6 / 2017年2月 / 978447979568

著者はフォトリーディングという速読法の公認インストラクターですが、本書では、特にフォトリーディングにはフォーカスせず、効率的に記憶力を上げるコツをあれこれ紹介しています。記憶術本としては、特に目新しい内容はありませんが、記憶が感情と強く結びついていること、継続して飽きずに学習を続けるコツなど、学習者のメンタルに気配りした内容が、さすが15年の講師歴を感じさせます。著者曰く「本書で触れているすべての方法でなく、2つ3つ実践できるだけでも、毎日が変わってきます」。確かに、記憶力が上がった方が自分に自信が持てそうです。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

書店員のレビュー一覧

葉で見わける樹木 増補改訂版

気になる木の名前がわかります。

『葉で見わける樹木 増補改訂版』 / 林将之 / B6 / 2010年7月 / 9784092080232

夜空を見上げて星座が見つかると楽しいように、街を歩いて見かけた樹木の名前がわかると意外と楽しいものです。ケヤキ、ユリノキ、ヤマモモ、エンジュetc.でも、バラやチューリップのような派手な特徴がないので、花と比べて樹木の判別は難しいかも知れません。そんなときは、このハンディサイズのガイドブックが役に立ちます。葉の形、葉の付き方をガイド通りに辿っていくと、471種類の樹木の名前と性質がわかるのです。野山や公園はもちろんのこと、庭木や街路樹まで、身近な樹木を網羅していますので、出かける時にバッグにこの一冊が入っていると、散策の楽しみが広がります。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

ふたつのしるし

「海辺のカフカ」にオマージュしてる?

『ふたつのしるし』 / 宮下奈都 / 文庫 / 2017年4月 / 9784344425996

物語の序盤はあまりにもまだるっこしくて、いったいどうなってしまうのだろうと不安になってしまいます。そんなじれったさが続きながらも最後は何とかなってしまうというオチがなんとも心地よいです。1回の失敗で人生が永遠に貶まれ続けるような息苦しい時代にあって、このような物語は救いです。だからこそ疲れた時、ちょっと立ち止まるのにはもってこいの作品です。今度、近くの公園で蟻の行列でも探してみようかという気分になったりします。それにしても、このような作家さんが本屋大賞に選ばれるとは、書店員ってかなり仕事に疲れてる?

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

最愛の子ども

これ以上の小説があっただろうかと思うほどの傑作。

『最愛の子ども』 / 松浦理英子 / B6 / 2017年4月 / 9784163906362

書くべき内容と書ける技術を併せ持った作家の強さ。これ以上の小説があっただろうかと思うほどの傑作が誕生した。あまりに完璧に統制された作品なので、素人の言葉で汚したくない。必要最小限の記述にとどめる。舞台は現代日本。首都圏。高校。登場人物の大半は女子高校生。教師や親、若干の男子高校生も登場する。何より特徴的なのは「わたしたち」という一人称複数。これが実に効果的に使われていて、この内容を書くにはこの方法しかなかったと思わせる。とはいえ人称形式の特殊な実験小説といった仕上がりではない。むしろ文章自体には小難しいところが全くなく、それこそ高校生にも読みやすい青春小説として成立している。おそらくは時間をかけて厳密に選ばれた言葉と表現方法。その成果としての圧倒的な美しさ、鋭さ。1年に1作しか小説を読まない人にも推したい逸品。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

跳びはねる思考

エッセイを読む喜び!

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』 / 東田直樹 / B6 / 2014年9月 / 9784781612454

エッセイを読むのが楽しいのは、自分以外の人の感性に触れることができるから。普段自分が見落としている何気ない日常の一コマが、著者の文章によって何か初めて触れたような新しいものに生まれ変わって立ち現れる、そんな感動があります。読後には新しい知人が増えたような、世界が広がったような、爽快感のあるエッセイです。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

美徳のよろめき 改版

文春砲の無かった時代に

『美徳のよろめき』 / 三島由紀夫 / 文庫 / 2011年11月 / 9784101050096

「美徳のよろめき」というタイトルは小説家の中の”サービス精神”がウケを狙ったのだろうと思って読み進めていくと、物語の終盤でその答えを見いだしたときに「ああ、そうだったのか」と納得します。女性の”不倫”を描いたこの作品にはしかし、対世間の視点が無く、あくまでも内面の葛藤に終始しています。喧しい今の時代では恐らく書こうと思っても書ききれないことでしょう。こんな時代だからこそ、酒場のマダムの言葉を矢口真理さんとベッキーさんに贈ります。「強くおなりにならなくてはね」

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

Tの衝撃

この発想・・・考えさせられます

『T の衝撃』 / 安生正 / B6 / 2017年2月 / 9784408537009

改憲議論が具体性を帯びてきている中、自衛隊の位置づけについては賛否両論。日本を取り巻く安全保障問題がクローズアップされているが、自衛隊の存在意義やその役割をあくまでもエンターテインメントとして描かれています。よく耳にする、背広組・制服組の組織間の思惑、リアルな戦闘描写。第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞の著者の三作目です。巻末の主要参考文献も書店の棚つくりに役に立ちそう

レビュアー:稲葉 順 / リブロ / 男性 / 50代

台湾の「いいもの」を持ち帰る

台湾の「いいもの」全59点

『台湾の「いいもの」を持ち帰る』 / 青木由香 / 四六版 / 2017年3月 / 9784062998642

「この本には高級なものは何もありませんが、地味でも飽きずに長く使えて台湾の空気ごと持ち帰れるセレクトばかりです。台湾の「いいもの」を買いに、台湾に遊びに来てください。」と冒頭で語る青木由香さんは台湾在住歴14年超。そんな青木さんが台湾で実際に愛用しているアイテムはもちろん、教えたくないものまで紹介する「ものカタログ」です。なんだか旅先で見たことあるようなステンレス製のれんげ、お土産定番のからすみ、パイナップルケーキ、乙女心をくすぐるチロリアンテープなども掲載。地元の人たちが長年愛用する日用品、食料品、衣料品。永遠に変わらない「台湾ベーシック」を持ち帰りませんか? この一冊で今すぐ台湾に行きたくなる!

レビュアー:天神店F / リブロ福岡天神店 / 女性 / 30代

超速片づけ仕事術

30分で読めて一生役立つ

『超速片づけ仕事術 仕事が速い人ほど無駄な時間を使わない!』 / 美崎栄一郎 / B6 / 2017年4月 / 9784761272494

「超速」「片づけ」「仕事術」。忙しいビジネスパーソンの悩みを解決してくれそうな本書には、「鞄の中を整理しましょう」「PCに付箋を貼るのはやめましょう」など、ビジネス版暮らしのヒントとでもいうべき40のワザが紹介されています。それだけでも役に立つのですが、著者が本当に伝えたいことは、巻末の「おわりに」にあります。仕事のレベルが上がるにつれ、またテクノロジーが進化するにつれ、仕事術の最適解は変わっていきます。ゆえに仕事のやり方の工夫は尽きることがなく、だからこそ仕事は面白いんです。類書の多い「仕事術」本ですが、読む人にとってキラリと光るワンセンテンスがどこかのページに見つかるであろう本書は、良い本だと言っていいと思います。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

これは経費で落ちません!

「経理なんて、経理なんて○○だ〜」って叫びたい

『これは経費で落ちません! 経理部の森若さん』 / 青木祐子 / 文庫 / 2016年5月 / 9784086800822

”2”も概ね好評な「これ経」の第一弾です。”経理あるある”の話しかと思いきや、主人公の森若さんが地味目な設定にもかかわらず、結構アクティブに動き回ってます。もちろん、ガチで経理部を描いたら新書になっちゃうんだけど。だから「あるわけねぇだろ、んなもん!」とツッコむのはやめましょう。舞台となる天天コーポレーションはメーカーだからか、営業部と経理部の確執は意外と少なめです。商売を生業としている会社だったらもっとギスギス感が出て感情移入しやすかったかもしれないけれど、案外、このほっこり感が心地よいです。誤解されても怒りが込み上げても平静を装う森若さんには思いっきり共感しちゃいます。

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

勉強の哲学

勉強のすすめ、あるいは自由への誘惑。

『勉強の哲学』 / 千葉雅也 / B6 / 2017年4月 / 9784163905365

同調圧力から外れ、今の環境から自由になるために勉強を深めようと誘うディープ・ラーニングのすすめ。深く勉強するとはどういうことか、その原理をまとめた。著者は2013年刊行の『動きすぎてはいけないジル・ドゥル−ズと生成変化の哲学』で紀伊國屋じんぶん大賞を受賞している哲学研究者。この本も、ドゥルーズの哲学やラカン派精神分析、分析哲学等を背景としたものだが、その学問的な説明は巻末に添えられるだけで、本文は哲学の専門的知識がなくても十分に読める文章になっている。加えて後半の「実践編」には〈「まとも」な本を読むことが、勉強の基本である」〉として、読むべき本の選び方、本の見分け方が書いてあり、学問へのアクセスガイドになっている。敷居は低く、視野は広く。知的であることを楽しむための明るい勉強論。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

本屋、はじめました

それぞれの人生がある

『本屋、はじめました』 / 辻山良雄 / B6 / 2017年1月 / 4908087059

本屋で働くものとして、自分のお店を持つのはあこがれである。ただ、実際に開店を決断するのは難しく、失敗も多いと聞く。そんな中で、彼の開店とその後の成功は、ともに働いたことがあるものとしてとても誇らしく、自分を見つめさせるものであった。

レビュアー:40代男子 / リブロ / 男性 / 40代

マーヤの自分改造計画

「人気者」ってどんな人?

『マーヤの自分改造計画』 / マーヤ・ヴァン・ウァーグネン 代田亜香子 / B6 / 2017年3月 / 9784314011464

パパの書斎で1951年に書かれた『ベティ・コーネルのティーンのための人気者ガイドブック』を見つけたマーヤ。出版されたのは60年以上も前なのにベティ・コーネルはマーヤがひそかに心からほしがっているものを知っていた。それからベティのアドバイスを月に一つ実行する、マーヤの大いなる実験が始まる…。1950年代のアメリカでほんとにこんなことを…?(まぶたにワセリン塗るとか)ということもあるのだけど、一つ一つ実行していくマーヤ。外見だけでなく心もどんどん大人に近づいていく中学生のころを思い出しながら、こんな友達いたら楽しかっただろうなと思わずにいられない!アメリカの学園ドラマそのもののような展開にドキドキしながらもマーヤを応援している自分に気が付くはず。「人気者」って誰にでもなれるの?と聞かれたら「もちろん!」とマーヤは言う。「ほんとうに正しいと思えること」を学んだマーヤの日記、読んでみませんか?

レビュアー:天神店F / リブロ福岡天神店 / 女性 / 30代

愛しの富士そば

富士そば公認ファンブック

『愛しの富士そば』 / 鈴木弘毅 / B6 / 2017年2月 / 9784800311702

首都圏を中心に展開する立ち食いそばチェーン「名代(なだい)富士そば」。ありふれた立ち食いそば屋と侮ってはいけません。チェーン店なのに各店が提供するメニューに違いがあります。富士そばを経営するダイタンHD(株)は、店舗数が一定数増えるたびに分社化して、互いに切磋琢磨しているのです。さらに、全国の店長がオリジナルメニューを考案することで、新たな立ち食いそば屋の地平を切り開いています。この「チェーン店なのに画一的でない」富士そばの魅力にはまった著者は国内116店舗、海外6店舗を食べ歩き、24時間営業に密着し、製麺会社を探訪し、醤油(カエシ)の秘密を解き明かすため小豆島へ渡ります…。本の価格は、タヌキそばに換算して3.6杯分ですが、これを読むことで、立ち食いそば屋が単に空腹を満たす場所ではなく、様々なドラマのある豊かな世界であることに気付かされるので、立ち食いそば屋に立ち寄る方には一読をおすすめします。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

復活の日

スナックあけぼの橋のポスターって

『復活の日』 / 小松左京 / 文庫 / 1998年1月 / 9784894563735

細菌兵器が漏れて人類が滅亡するというSFです。SFではあるけれど、描写は純文学です。普通だったら世界中に蔓延した細菌によるパニックとそこで闘う人類を細かく描きそうなところを、実にあっさり素通りしています。この小説における細菌はあくまでもプロセスであり、メインの盛り上がりは終盤にやってきます。舞台は1960年代後半。50年経った今こそ再読の価値あるいかにも”左がかっていた京大生”らしい作品です。

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

美濃囲いを極める77の手筋

受けて受けて受けまくる!

『美濃囲いを極める77の手筋』 / 藤倉勇樹 / B6 / 2016年2月 / 9784839958442

金2枚と銀1枚が美しく並ぶ美濃囲い。振り飛車党なら必ず組んだことがある人気の囲いですが、組みあがるまでに手数がかからない反面、端攻めに弱い、角のラインに弱い等、弱点が多く、美濃崩しにはいくつもの手筋が研究されています。本書では、藤倉勇樹五段が、横攻め、端攻め、斜め攻め、全ての相手の攻撃を受けて受けて受けまくります!もちろん、ただ受けているだけでは相手玉は詰まないので、攻撃の間隙をぬって突く急所の一手、スリリングな終盤の攻め合いを制する強気な手順を、プロの公式戦の局面も交えながら、丁寧に解説します。この77の手筋をマスターすれば、どんな相手に仕掛けられても、機先を制した受けで攻守に充実した戦いができるようになるでしょう。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

雷神

LOUDNESS、今からアメリカ行くってよ

『高崎晃自伝 雷神 Rising』 / 高崎晃 増田勇一 / B6 / 2015年12月 / 9784845627172

もし違ったジャンルのギタリストだったらもっと高く評価されていただろうと思われるLOUDNESSのギタリスト、高崎晃氏の自伝です。なんてったって”割に合わないメタル”です。幼少の頃から現在に至るまで、余すところなく網羅しています。ただ、内容はそれほどセンセーショナルなものではなく、ロックミュージシャンにしては意外と地味な感じです。カレーが辛すぎたり、シャワーが熱すぎたりという一般ウケする伝説が無い分、ちょっと押しが弱いです。それでも自分の信念に基づいてロックし続けるという、メタルはやっぱり生真面目な人にしか出来ない音楽だということを感じさせてくれる一冊です。

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

タルト・タタンの夢

コージーミステリーの快作

『タルト・タタンの夢』 / 近藤史恵 / 文庫 / 2014年4月 / 9784488427047

推理小説に「コージーミステリー」と呼ばれるジャンルがあります。cozy(居心地がいい)の名の通り、日常で起こる不思議な謎を素人探偵が解き明かすライトな読み物です。ハードボイルドとは違い、殺人や暴力沙汰は起きません。本作の探偵役は、下町の小さなフレンチ・レストランのシェフです。店の名は「ビストロ・パ・マル」。「パ・マル」とはフランス語で「悪くないね」。この人を喰ったような名前のビストロには、様々な事情を抱えた人(つまり、普通の人ってこと)が訪れ、不思議な話をします。腕のいいシェフである三舟は、少々偏屈なところがありますが、人の心理をくみ取る力が凄く、客からの話を聞いただけで、その謎を解き明かしてしまうのです。本作には7つの短編が収められ、それぞれに美味しそうな料理が登場します。その描写を読むだけでも幸せな気持ちになれる短編集です。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

花ざかりの森/憂国 改版

銀座のバアのマダムは眠れない(解説より)

『花ざかりの森・憂国』 / 三島由紀夫 / 文庫 / 2010年4月 / 9784101050027

”時は来た、それだけだ”。美輪明宏氏が”怪物”と評した三島由紀夫氏の自薦短編集です。なんてったって自薦です。驚くほど多彩でミクスチャーな内容です。フランス人が好みそうな純文学もあれば、筒井康隆氏の短編集に載せてもおかしくない荒唐無稽なものもあります。そして圧巻の「憂国」です。”いかにも”といった感じです。タイトルだけ見て”嫌いにならないでくださ〜い。”という純度100%の美しさがあります。解説が三島氏本人なので書き手の意図と読む側の感覚の乖離が見えて、さらに面白いです。

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

古代人と夢

『古代人と夢』 / 西郷信綱 / 文庫 / 1993年6月 / 9784582760019

夢うつつ、夢まぼろし・・・夢ってなに?過去から現代まで人間を動かしてきた原動力はなにか。ただ生きるのではないなにかを問いかけてくれる、そんな本です。

レビュアー:梅津 豊 / リブロ国領店 / 男性 / 50代

仕事で数字を使うって、こういうことです。

数字が苦手なビジネスパーソンへ。

『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』 / 深沢真太郎 / B6 / 2013年8月 / 9784534050977

著者の深沢真太郎は「ビジネス数学」を提唱する教育コンサルタント。「ビジネス数学」とは著者の造語で、論理思考と数的思考を用い、ビジネス上の課題を数学的に解決する便利な知識です。いい仕事をするには、感性だけでなく、数字が大事というのは、多くのビジネスパーソンが同意する事実。しかし、数字に苦手意識をもつビジネスパーソンが多いこともまた事実です。そんな方には、中堅アパレル企業の営業部を舞台に、数字を用いることでビジネスが好転していくストーリーを楽しみながら数的感覚が身に付く本書をお薦めします。「私の人生のテーマは、数字が苦手な人を0(ゼロ)にすることだ」と宣言する深沢真太郎渾身の一冊。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

沈める滝 改版

「沈める滝」って卍だよね〜

『沈める滝』 / 三島由紀夫 / 文庫 / 2004年4月 / 9784101050119

2016年は夏目漱石氏の年でした。2017年は是非とも三島由紀夫氏の年にしたいです。なんてったって三島氏の小説はストーリーが面白いんです。そんな中でも最強にポップなのがこの「沈める滝」。実に娯楽小説です。裏ではちょっぴりダーティーだけど、表向きは爽やかで謙虚な好青年という主人公がメッチャカッコイイんです。文学云々ということは抜きにして、表面だけ読んでも十分面白いです。あまり難しく考えず気軽に読んでいただきたい作品です。ちなみに、映画化するなら主演は亀梨和也さんで。

レビュアー:加藤永人 / リブロ / 男性 / 50代

こんなことも知らなかった信州の縄文時代が実はすごかったという本

ほんとにすごい

『こんなことも知らなかった信州の縄文時代が実はすごかったという本』 / 藤森英二 / A5変 / 2017年3月 / 9784784072996

縄文時代の日本の文化は、かなり高かったといわれているが、結構知らないことが多かった。この本を読んで目からウロコの思いがする。知らないことが多い自分だが、こうして新しい発見をさせられる本との出会いがあるから、書店人はやめられない。

レビュアー:梅津 豊 / リブロ / 男性 / 50代

LGBTを読みとく

研究・学問の存在意義や効能を実感させる入門書。

『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』 / 森山至貴 / 新書 / 2017年3月 / 9784480069436

ちくま新書には、上野俊哉と毛利嘉孝による『カルチュラル・スタディーズ入門』という名著がある。難解な現代思想を背景にして幅広い領域に広がるカルチュラル・スタディーズの論文を読みとくには専門的なトレーニングを要するが、そのような蓄積のない読者に対しても、カルチュラル・スタディーズの意義や重要性を実感させるように書かれた入門書だ。現場感覚に支えられた実例紹介と旗幟鮮明な理論解説が、絶妙なバランスで読みやすさと読み応えを両立させている。全く同じことが、この『クィア・スタディーズ入門』にも当てはまる。この分野ではこれまでにない決定的な入門書が登場したと言っていいだろう。性の多様性に「理解ある」と思っている人にも新たな視点からの問い直しを迫る。学問ならではの、刺激がある。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

ザ・コーチ

あなたの夢は、なんですか?

『ザ・コーチ 最高の自分に気づく本』 / 谷口貴彦 / 文庫 / 2016年11月 / 978409470012

問いを与えられると人間の脳は自動的に考え始めるようにできているらしい。この人間の本質に根ざしているのがコーチングの素晴らしいところで、あらかじめ決まった答えを教えるティーチングとは違うのです。しかし、人は質問の内容だけでなく、その質問が発せられた状況についても反応する生き物なので、コーチとコーチされる人との間には事前の信頼関係が必要。そこがコーチングの難しいところです。この小説では、主人公が公園で不思議な老人と出会うところから始まり、二人は最初から互いに申し分のない信頼を寄せあうので読んでて「え?」と思うのですが、そこさえ飲み込めば、あとは目標設定の大切さや視点の変換、思考の広げ方が主人公の成長と共によく分かるようにできており、また何度読んでも新たな気づきが得られる不思議な読後感の小説です。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

二つの政権交代

政治学が発見した日本政治の「変化」について。

『二つの政権交代』 / 竹中治堅 / B6 / 2017年2月 / 9784326351701

なぜ民主党は選挙で負けることがわかっていながら消費税の増税に踏み切ったのか。そして、その後を引き継いだ安倍政権はなぜ高い支持率を保っているのか。この現代日本政治に関わる2つの大きな謎を解くためには、自民党→民主党→自民党と移行した2つの政権交代の「中身」を探る必要がある。本書は、2つの政権交代を通じて、政策はどれくらい変わったのか/変わらなかったのか、あるいは、政策決定過程はどのように違うのか/違わないのかを明らかにしようとする第一線の政治学者たちによる論集で、民主党政権と安倍政権が意外にも多くの点で連続的だと論証する。永田町・霞が関を舞台にした政治劇としてもおもしろく読め、政治学の専門的な知識を持たない読者にも薦められる。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

土漠の花

これってフィクションとしてはリアルすぎ

『土漠の花』 / 月村了衛 / 文庫 / 2016年8月 / 9784344425125

2015年、安保関連法が採決された1年前、幻冬舎から発売された。と、前置きをしたうえで。登場する自衛官達の過去の繋がりや自身の生い立ちを物語に絡めつつ一級品のアクション活劇として楽しめる。銃器のディテール・自衛隊用語もリアルに描かれ、読み進めていく中で場面場面の映像が頭の中でとても明瞭に浮かんでくる。是非、映画化してもらいたい。あくまでもフィクションではあるのだが、物語の最後に描かている、全ての事実は公にはされないシナリオが現実にあるのではないかと感じさせられる。

レビュアー:稲葉順 / リブロ/BOOK事業部 / 男性 / 50代

この地球を受け継ぐ者へ

「旅」ではなく「冒険」

『この地球を受け継ぐ者へ』 / 石川直樹(写真家) / 文庫 / 2015年6月 / 9784480429391

石川直樹が22歳で参加した人力地球縦断プロジェクト「P2P」の全記録で彼のデビュー作。様々な国から来た若者8人が北極から南極まで人力で移動しながら、地球と真正面から向き合い、環境保護活動をする…文章で書けば「そうなんだー」かもしれないけれど、日記をそのまま収録したこの作品から感じるものはそんな単純なものではない。赤裸々に描かれた記録はヒリヒリするような若さにあふれ、読んでいて苦しくなることも。社会問題や環境問題(もちろん恋や友情も!)について考え、答えて、葛藤する。そしてふと場面が変わると美しい風景がひろがる…あぁ若かりし石川直樹はこんなにまぶしかったのだ。良い本です。

レビュアー:天神店F / リブロ福岡天神店 / 女性 / 30代

星を継ぐもの

名作は名作

『星を継ぐもの』 / ジェームズ・P.ホーガン 池央耿 / 文庫 / 1980年5月 / 9784488663018

何度読み返してもおもしろい。とにかく面白い。なにがなくてもオモシロイ。シリーズ化されてますけどこれが一番。SFであり、ミステリーであり、一流の物語です。ちなみに私は、ラストで泣けました。

レビュアー:梅津 豊 / リブロ 国領店 / 男性 / 50代

大日本帝国の興亡 1 新版

お待ち申し上げておりました

『大日本帝国の興亡 1』 / ジョン・トーランド 毎日新聞社 / 文庫 / 2015年6月 / 9784150504342

J・トーランドといえば戦記作家として、K・ライアンとともに私の好きな作家であります。昔々読んだ記憶があるこの本を、気軽に電車の中で読める愉悦がなんともいえぬ快感であります。内容的にはとても重いものがありますが、読んで損はない内容です。文庫全5巻という中に、日本の、そしてアメリカのあの時代の一片が凝縮されています。

レビュアー:梅津 豊 / リブロ 国領店 / 男性 / 50代

横綱

横綱目線で語ります

『横綱』 / 武田葉月 / 文庫 / 2017年1月 / 9784062934299

稀勢の里が72代横綱に昇進し、17年ぶりの四横綱時代に沸く相撲界。その頂点に立つ横綱とはいったいどんな人たちなのか。本書では若乃花(初代)から71代鶴竜まで総勢22人の横綱が登場し、生い立ちから入門、初土俵から現在までの心境が赤裸々に語られる。「一度も優勝しなかった双羽黒」「優勝決定戦で貴乃花に敗れた武蔵丸」「『僕はなんか日本というものに負けてしまったように思うのです』と語る朝青龍」…全員が個性的で誇り高く、胸を打つエピソードが多いんです。脈々と受け継がれる力人の系譜にふれることで、相撲の世界の奥深さが感じられます。

レビュアー:木下義範 / リブロ / 男性 / 40代

ザ・議論!

保守でもリベラルでも、立場を問わず勉強になる一冊。

『ザ・議論』 / 井上達夫 小林よしのり / B6 / 2016年11月 / 9784620324210

一般的な知名度では小林よしのりの圧勝だろう。ただ、法学クラスタにおいて井上達夫といえば超の付く大物。日本のリベラリズム研究をリードする法哲学の最強カードだ。そして今、井上達夫の勢いが止まらない。2015年刊『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(通称リベリベ)から始まり、その第2弾『憲法の涙』、そして今度は小林よしのりとのガチ対談だ。最近は『朝まで生テレビ』にも出演するようになって、やけに露出が多い。サントリー学芸賞や和辻哲郎文化賞を受賞している学界のエリートを「論壇」に引っ張り出した毎日新聞出版の編集担当者・志摩和生には頭が下がる。注目を集める「憲法9条削除論」については「井上達夫の改正案」として具体的な条文案を掲載。保守でもリベラルでも、立場を問わず勉強になる一冊。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

なにのせる?

おいしいキオクは宝物

『なにのせる?』 / 鹿児島睦 ギャラリーフェブ / B4 / 2017年1月 / 9784579212903

きょうのおやつはなにのせる? 動物や植物が描かれた、陶芸家・アーティストの鹿児島睦さんの楽しいお皿に、いがらしろみさんやなかしましほさんら10人の料理家たちが見るだけで「うわぁ〜」と思わず声が出そうなおいしいおやつをのせました。お皿の中から飛び出してきた動物たちが案内人となり「なにのせる?」と問いかけます。登場したお皿の紹介、おやつのレシピつき。絵本仕立てのかわいくて美しい本、おやつ好きのお友達へのギフトにいかがでしょうか。

レビュアー:天神店F / リブロ福岡天神店 / 女性 / 30代

あなたのために 続

「いのちを支える」

『あなたのために 続』 / 辰巳芳子 / B5 / 2017年2月 / 9784579212910

お料理本の超定番『あなたのためにいのちを支えるスープ』から15年。「古来馴染んできた「お粥、おじや、重湯」は立派なポタージュ」と辰巳芳子さんは気が付きます。そして待望の第二弾となる、お粥のスープ性を分析、提案した『続あなたのために』が発売されました。季節ごとのお粥メニューは旬のものを使い、目にも体にも優しい。お粥に添える「箸休め」のレシピが載っているのもうれしいポイント。がんばって作れますお粥なのにこんなにおいしそうでいいの?というメニューがたくさん。表紙の絵はジョルジョ・モランディ。美しい本です。

レビュアー:天神店F / リブロ福岡天神店 / 女性 / 30代

本屋、はじめました

小さな本屋の「運動理論」。

『本屋、はじめました』 / 辻山良雄 / B6 / 2017年1月 / 9784908087059

東京・荻窪の小さな本屋「Title」は、まず経営理念がすばらしい。「書物を扱う事業を通し、個の多様性を確保した、豊かな社会づくりに貢献する」とある。その理念をどのような手法で実現するのか。この本に書かれている起業物語をそのような目で読んだとき、ロマンティックなリアリストである著者の「運動理論」が見えてくる。尚、「元リブロ」の書店員が書いた本としては他に、ちくま文庫『書店風雲録』や、論創社の『「今泉棚」とリブロの時代』『リブロが本屋であったころ』等がある。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

浮遊霊ブラジル

七つの短編が織りなす、「日常」と「非日常」

『浮遊霊ブラジル』 / 津村記久子 / B6 / 2016年10月 / 9784163905426

表題作「浮遊霊ブラジル」は、初の海外旅行を目前に亡くなった男性の、「浮遊霊」としての数奇な日常を追う。そこに微塵のホラーなどなく、こんな浮遊霊なら一度はお会いしたく。その筆致は軽快で、まるでラテン音楽を聴いているかの如く綴られており、常にコミカルでクスッと笑える。2013年川端康成文学賞受賞作の「給水塔と亀」は、定年を迎えた独り身の男の、故郷への引っ越しから始まる。数十年前に過ごした場所、男が果たして何を求めて再びこの地を選んだのか。その新しい住まいに、微かな記憶の残る給水塔が浮かび上がり、亀が砂を歩く。淡々とした文章の中に、郷愁と実存がないまぜになり、グンと背中を押す力強さが不思議と感じられる。全編に通底する、少し斜に構えつつも暖かい眼差しは、疲れた日常の大いなる清涼剤になること間違いなし。

レビュアー:小熊基郎 / リブロecute日暮里店 / 男性 / 30代

「トランプ時代」の新世界秩序

政治学者の冷静と情熱のあいだ

『「トランプ時代」の新世界秩序』 / 三浦瑠麗 / 新書 / 2017年2月 / 9784267020766

大統領選挙のかなり早い段階からトランプ現象を軽視してはならないと警告していた国際政治学者による選挙後緊急出版となるトランプ分析。賞賛でも非難でもなく「理解」のためのアプローチで、トランプ大統領誕生の意味に迫る。冷静な分析の一方で、党派的な対立構図に目を奪われて見逃しがちな政治家の欺瞞を手厳しく暴く著者の正義感は熱い。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

弱いつながり

紀伊國屋じんぶん大賞2015受賞作

『弱いつながり』 / 東浩紀 / 文庫 / 2016年8月 / 9784344425019

斬新で挑発的な提案を次々繰り出す、現時点でおそらく最強のオピニオン・リーダーが、平易な言葉で自身の思考体系をエッセイ風にまとめたこの本は、彼の多様な言動をひとつの筋に統合してくれる便利な「東浩紀入門」になっている。アーキテクチャに支配され、ネットワークに縛られたポストモダン型の不自由から逃れることは可能か。現代のテクノロジーと人間の弱さをともに否定せず、やせ我慢のない「正直な」思想を貫く東浩紀は、ここで「観光」をキーワードにして、その方法論を示唆してみせる。これは、現代哲学最前線に現れた新しい「自由論」であり、また、自由の哲学者・東浩紀の、名刺代わりの一冊だ。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

日本に絶望している人のための政治入門

「新しい論壇」をリードする国際政治学者

『日本に絶望している人のための政治入門』 / 三浦瑠麗 / 新書 / 2015年2月 / 9784166610105

アベノミクス、集団的自衛権、沖縄問題、ロシア情勢、中東和平など、時事的なテーマを取り上げながら、現代政治の「構造」を解き明かす。賛成/反対の党派的な綱引きからは距離を置き、核心的な論点を見抜くための「読み方」を示す。それが、ニュースでよく聞く政治の話とは随分違うので刺激的だ。自らの立ち位置はリベラルとしながら、日本の左派に手厳しい。歴史認識や安全保障の観念論に費やすエネルギーを、例えば非正規労働問題にもっと分配せよと強く求める。イデオロギー闘争から、合理的な問題解決思考へ。「新しい論壇」のトレンドと符合している。冷徹な分析と具体的な政策提言。思考停止を許さない「学び」の先に、希望がある。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

書店風雲録

書店におけるリベラリズムのゆくえ

『書店風雲録』 / 田口久美子 / 文庫 / 2007年1月 / 9784480422989

90年代にリブロからジュンク堂に移籍した書店員が、リブロ在籍中の内情をエッセイ風に書いた本。当時は、300坪もあれば立派な大型書店だった。「何でもある書店」などなく、あっちの書店にはないものが、こっちの書店にはある。だからリブロは、老舗の主流派書店とは違った品揃えで、新興の潮流や、異端、周縁、マイノリティへの近接を表現できた。しかし、売場拡大競争が進むと、その全てを包含するメガストアに優位性が移った。そのとき、田口がジュンク堂への移籍を選んだのは、まさに慧眼だった。その後、書店におけるリベラリズムの発現は、面積一番店を志向するジュンク堂がリードした。近年、カフェ併設、イベント重視の小型書店が注目を集めている。書店における、コミュニタリアンの隆盛と言っていいだろうか。時代が変われば、書店も変わる。その変化が、単なる状況追随ではなく、自由創造的なものであれば、きっとおもしろい。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

保育園義務教育化

リベラリスト古市憲寿、本気の政策提言。

『保育園義務教育化』 / 古市憲寿 / B6 / 2015年7月 / 9784093884303

子どもを育てるのは「家族」の責任か「社会」の責任か。保守とリベラルの象徴的な対立点だ。民主党政権の「子ども手当」は、育児の「社会化」を進めようとした政策だった。本書の提案も、その延長線上にある。いろいろ誤解されやすい人ではあるが、リベラリスト古市憲寿として本気の政策提言だ。社会学者らしく、保育園待機児童問題がなぜ解消しないのか、その社会思想的背景を炙り出す。日本社会の保守的な(昭和的な)家族観が障壁になっていることを示して、その非合理性を明らかにする。主張の根拠は、少子化、労働力不足など日本社会が抱える問題を解決する手段としての合理性だが、「お母さん」を大事にしない国への怒りと、女性への共感に満ちた本。古市の優しさが滲み出ている。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

ネンレイズム/開かれた食器棚

「私を束ねないで」

『ネンレイズム』 / 山崎ナオコーラ 山崎ナオコーラ / B6 / 2015年10月 / 9784309024165

山崎ナオコーラの小説は、いつも「私を束ねないで」と訴える。本作ではまず「年齢」による区分を問う。常識や先入観をそのままにせず、ほぐして開いてみせる。その手つきは、作品を重ねるごとにやさしくなっている。強いメッセージが物語によく馴染んで、浸透力を増している。やわらかい空気の中で、自由についての哲学が研ぎ澄まされていく小説。「個人の尊重」を1ミリも諦めることなく、同時に自己を絶対視する教条主義にも警戒する。ときに揺らぎ変化する「個」の多様性が最大限尊重される倫理を探る。古今の自由論が密かに編み込まれている。こんなにふんわりとしたタッチで、ここまで書けるのか、ここまで迫れるのかと驚きながら読んだ。一見かわいらしいが、ラディカルな哲学小説だ。作家は慎重に選んだ言葉で、世界を書き換える。私たちは、更新された世界を生きよう。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

経済的徴兵制

安保問題を生活感覚にぐっと引き寄せる。

『経済的徴兵制』 / 布施祐仁 / 新書 / 2015年11月 / 9784087208115

「集団的自衛権の次は徴兵制では」との声もあるが、多くの先進国で徴兵制は採用されていない。アメリカを含め、志願兵制度が一般的だ。しかし、無条件の自由意志によって入隊を希望する志願者に恵まれるわけではない。貧困層の若者が経済的理由から軍役を選ばざるをえない状況がある。これを「経済的徴兵制」という。本書は、外国の軍隊や自衛隊の隊員募集手法に注目し、兵役と階層の強い関連が、国や時代を超えて一般に遍在していることを明らかにする。著者は、志願兵制度の基本構造として「経済的徴兵制」が不可避だとして、それでも専守防衛の範囲を超えて自衛隊の「参戦」可能性を広げるべきかと問う。遠くの戦争にも何らかの「国益」があるとして、そのために貧困層の若者を「資源」として「消費」していいのかと問う。「公」の安保問題を「私」の生活感覚にぐっと引き寄せる接点がここにある。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

性風俗のいびつな現場

「最底辺風俗の社会学」あるいは「風俗福祉論」。

『性風俗のいびつな現場』 / 坂爪真吾 / 新書 / 2016年1月 / 9784480068682

著者は東大・上野千鶴子ゼミの出身で、障害者に対して射精介助サービスを提供する非営利団体「ホワイトハンズ」の代表理事。社会福祉の専門家だ。当初この本は「風俗福祉論」という仮題で企画されていた。「最底辺風俗の社会学」というタイトル案もあったらしい。つまり、そういう本なのだ。風俗と福祉を同じ地平で捉えて、その「間」に潜む問題を可視化する。福祉制度の不足を性産業が補っている現実から目を背けずに、両者の連携、風俗の「社会化」を提起する。性労働の実態を別世界の物語として遠くに見るのではなく、同じ社会の問題として身近に引き付けて考える点で、他の風俗ルポとは性質が異なる。著者は「女子」「彼女」「嬢」等、女性を示す名詞を書名に入れないことにこだわった。同じ編集者と組んだ既刊『男子の貞操』と同様、性の語られ方を問う言説批評としても挑戦的。読んだ人の反応が気になる本である。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

代議制民主主義

「自由主義」と「民主主義」の緊張関係に着目。

『代議制民主主義』 / 待鳥聡史 / 新書 / 2015年11月 / 9784121023476

『首相政治の制度分析』でサントリー学芸賞を受賞している京大政治学の看板教授が、初めて一般読者向けに著した政治制度論。この本で説明される政治学的知見は多岐にわたるが、中でも現在のわたしたちにとって有用なのは、自由主義と民主主義のバランスに着目する視点だろう。権力の集中を防ぎ、多様な利害の相互牽制によって偏った政策決定を排除し、結果として人々の自由を守ろうとする「自由主義」と、有権者の意思=民意が政策決定に反映されることを何より重視する「民主主義」との間には、一定の緊張関係がある。この2つの理念を調合しながら政治を安定化させる機能において、代議制民主主義の意義が積極的に見いだされる。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

1980年代

80年代の歴史的意義を問う。

『1980年代』 / 斎藤美奈子 成田龍一 / B6 / 2016年2月 / 9784309624891

80年代は「戦後」あるいは「近代」の終わりの始まりだった。終わりゆく時代は未だ色濃く、それゆえに新しい時代の躍動が際立った。本書は、あの時代の歴史的意義を問う視座に立ち、80年代の思想、文化、政治、社会を幅広く多角的に描き出す論集だ。懐かしい固有名詞が並び、多彩な執筆陣それぞれの80年代が連なって、読者の記憶を呼び起こす。それだけで十分に楽しい読み物だが、編者にはおそらく「戦後(近代)」を破壊しようと企てる現在の政権に対抗して、別のしかたで、ポスト戦後を構想する意図があり、ただの昔話では終わらない。その迫力が本書の最大の魅力だろう。大澤真幸、斎藤環、平野啓一郎、高橋源一郎それぞれと編者2名による4つの鼎談が、基調を示す。また、大澤聡「八〇年代日本の思想地図」がおもしろい。若い世代には巻末の「1980年代ブックガイド」が役に立つ。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

分断社会を終わらせる

学問への畏敬を再認識させられる。知的執念に感動。

『分断社会を終わらせる』 / 井手英策 古市将人 宮崎雅人 / B6 / 2016年1月 / 9784480016331

高い支持率を誇る政権でも増税は難しい。社会保障(再分配政策)が「バラマキ」と非難されることも少なくない。なぜか。それは、この社会の基盤となるべき「信頼」が脆弱で、不安や疑心暗鬼の中で自己防衛に走るほかない生き方を強いられているからではないか。つまり私たちは巧妙に「分断」されていて、競争を強いられ、疲弊しているからこそ、誰かが救済されることになかなか寛容になれないのではないか。この本は、『経済の時代の終焉』で大佛次郎論壇賞を受賞した経済学者が、経済学と財政学の知見を用いて、発想の転換を迫る提言書である。自分には「受益」がなく「負担」ばかりだと思えば、租税抵抗が強まり、増税への同意は「分断」される。だから「誰もが受益者」になるよう制度を設計しなければならない。受益者の範囲を広く設定できないか。希望の構想は、きわめて実務的に組み立てられていく。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

憲法9条とわれらが日本

良質な知識人による刺激的な9条論。

『憲法9条とわれらが日本』 / 大澤真幸 / B6 / 2016年6月 / 9784480016393

法哲学者の井上達夫は、「9条削除論」を唱える。安全保障政策を憲法から切り離し、民主的決定に委ねると同時に、戦力濫用を防ぐための統制規範として徴兵制導入を提案する。徴兵制には政府の無責任な好戦的政策を抑止する効果があるとの立場だ。文芸評論家の加藤典洋は、自衛隊を国土防衛と国連協力の2つに分けて憲法上の組織とする「新9条論」を提起する。同時に治安出動の禁止、非核三原則、米軍基地の撤廃も憲法条項とする。保守主義を標榜する政治思想史研究者・中島岳志は、前文で絶対平和主義を掲げつつ、9条では自衛隊の存在を明記して、その権限範囲を明確に定めるべきだと主張する。そして、社会学者の大澤真幸は、絶対平和主義条項としての9条を遵守する立場を表明し、さらに国際紛争を解決するための方策として、積極的中立主義と国連改革を提案する。平和主義=護憲ではない、様々な可能性が示され、思考を深める契機となる。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

本屋がなくなったら、困るじゃないか

新しい時代に相応しい出版流通のすがたとは。

『本屋がなくなったら、困るじゃないか』 / ブックオカ / A5 / 2016年7月 / 9784816709227

本は、著者→出版社→取次→書店→読者と、書き手から読み手に届けられる。このしくみ全体を出版流通と呼ぶとして、これがいま制度疲労を起こしていると繰り返されてきた。要は、毎日発売される「雑誌」を全国の書店=読者に届けるしくみとして整備された戦後日本の出版流通システムが、雑誌不況の時代において、変化対応を迫られている。事実、出版物全体のうち、いわゆる「本」の売上は下げ止まりつつあるが、「雑誌」の低迷は今後も続くと予想されている。それは、インターネット以後の情報革命による構造的な変化だ。では、新しい時代に相応しい出版流通のすがたとは、いかなるものか。出版社、取次、書店の各セクションから論客が集まり、いわば「出版流通の構造改革」をテーマに話し合った11時間強の座談会は、業界紙の編集長から紹介されたドイツの事例をひとつの重要なヒントとしながら、具体的なアクションへと展望を開いて終わる。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

青が破れる

小説ならではの達成に震えた。

『青が破れる』 / 町屋良平 / B6 / 2016年11月 / 9784309025247

「文藝賞」は、山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』、中村航『リレキショ』、綿矢りさ『インストール』、鈴木清剛『ラジオデイズ』といった青春小説の傑作を多数掘り出してきた。とりわけ、乾いた現代語で屈折を緻密に記述し、日常の不穏を丁寧に炙り出すような作風の、「さわやかなへんたい小説」とでも呼びたくなるような作品が多い。その最前線に、町屋良平が現れた。表題作は第53回文藝賞受賞作。約100頁と短い。主人公はボクサー志望だが、弱い。将来の展望も不明瞭だ。しかし、それ以上に周囲の不健康が勝る。対比的に、凡庸なまでの健康が主人公の輪郭として見えてくる。自律/依存、強さ/弱さ、生/死といったテーマが低温の文章でじわじわと描き出される。いや、そんなに単純ではない。短くとも豊かなテクスチャーがこの作品の魅力だ。言葉にできないことが言葉になっている、その小説ならではの達成に震えた。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

商業空間は何の夢を見たか

都市=商業のデザインを支える設計思想の現代史。

『商業空間は何の夢を見たか』 / 三浦展 藤村龍至 南後由和 / A5 / 2016年9月 / 9784582837391

パルコ出身のアナリスト・三浦展が、カウンター・カルチャーとしてのパルコをあらためて日本の精神史に位置付け、社会学者の南後由和が、「日本的広場」論の経緯を踏まえた渋谷(パルコ)論を展開し、建築家の藤村龍至が、自身が住んでいた埼玉県所沢市の「新所沢パルコ」を出発点にして西武グループの建築史を振り返る。80年代のセゾングループが盛況だった時代を、経済史的・文化史的に記録する文献は既に多い。この本のおもしろさは、その前史と後史、つまりパルコに流れ込んだ思想の源流と、現在の都市=商業が直面している状況を繋げて論じている点にある。都市=商業のデザインを支える「コンセプト」とは、私たちの生活空間をどういうものにしたいのか、その設計思想そのものだ。60年代以降の思想史の末端に、現在の私たちの闘争局面を描き出そうとする本として、むしろ若い世代に薦めたい。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

リリース

究極のジェンダーフリー社会?

『リリース』 / 古谷田奈月 / B6 / 2016年10月 / 9784334911287

同性愛者がマジョリティになった世界を、近未来小説仕立てで描く。国営の精子バンクを媒介とした人工授精が生殖を保障し、人々の生き方は爆発的に多様化。生殖目的の男女交際が不要になった世界で「男らしさ」「女らしさ」は前時代的な価値として敬遠され、性からの解放が謳歌される。先進的な価値観は都市から広がる。農村部に残る「古い価値観」、例えば「根っからの女好き」は、抑圧の対象となる。牧場で育った青年の、日に焼けた筋肉だらけの体つきが「ポルノモデルかセクシストの残党だ」と非難される件は示唆的だ。PC=ポリティカル・コレクトネスをめぐる摩擦や齟齬、それこそトランプを大統領にまで押し上げるアメリカ中間層の不満や、日本のネット社会に広がる「反リベラル」言説の攻撃性を連想させながら、物語は精子バンクの組織や運営に絡んだサスペンスとして進む。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

昨夜のカレー、明日のパン

脚本家・木皿泉の小説デビュー作。

『昨夜のカレー、明日のパン』 / 木皿泉 / 文庫 / 2016年1月 / 9784309414263

ちょっと不思議な設定。でもリアルな生活感。そして、なんといっても「リベラル」。この押しつけがましくない希望。正しき「大人」に読んでもらいたい小説です。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

昼田とハッコウ 上

社会のあり方を定義するように進む物語。

『昼田とハッコウ』 / 山崎ナオコーラ / 文庫 / 2015年9月 / 9784062931977

昼田くんとハッコウくんは、東京のある街の本屋さんで働く二人組。でも山崎ナオコーラ作品なので「この世は二人組ではできあがらない」!人と人との関係、つまり社会のあり方を、ひとつひとつ丁寧に定義していくように慎重に言葉が選ばれて、物語は進みます。書店の実務に詳しく「お仕事小説」のようにも読めますし、家族経営の商店を舞台にした「家族小説」のようにも読めますが、仕事や結婚や子育てなどの意味を言葉によって確認しながら、徐々に「この世界」が構築されていく「哲学(価値観)小説」としても読み応えのある作品です。そしてその問題提起は、「社会派」でもあります。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

統治新論

確かに、時代が哲学を求めている。

『統治新論』 / 大竹弘二 國分功一郎 / B6 / 2015年1月 / 9784778314262

ホッブズ、ロック、ルソー、シュミット、ベンヤミン、フーコーといった哲学・思想の蓄積に学びながら、現代の権力についてラディカル(根源的)に考える政治対論。近代政治哲学が立法権を中心に考えてきたこと(例えばロック『統治二論』)の限界を指摘し、行政の民主的コントロールを焦点化する國分功一郎の素朴な問いかけに、大竹弘二は政治哲学の成果を踏まえて理論状況を整理してみせ、さらに統治が国家の手から離れていく新自由主義化(民営化、外部委託)の流れに着目する。「行政権の肥大と民主主義の機能不全」は決して新鮮なテーマではない(この本では行政学の知見にほとんど触れていない)。しかし「立憲主義」が現実政治の争点になるほど近代の原理が揺らいでいる今、この対論のように歴史を遡り、権力の正統性を根源から考え直して現代に繋ぐ哲学の力が「役に立つ」。確かに、時代が哲学を求めている。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

下流老人

誰にでも下流化の可能性がある。

『下流老人』 / 藤田孝典 / 新書 / 2015年6月 / 9784022736208

著者は、埼玉でホームレスなどの生活困窮者を支援しているNPO「ほっとプラス」の代表理事。「病児保育」の駒崎 弘樹や「ブラック企業」の今野晴貴と年齢が近く、次世代福祉系オピニオンリーダーの一人として注目されている。「下流老人」とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」で、現在その数600〜700万人と推定され、今後も一層広がっていくと予想されている。この本では、高齢者貧困問題の実態、発生要因、社会的影響範囲、予防策、制度的対策などが網羅的に記述されていて、全体像の把握に役立つ。読んでわかるのは、誰にでも下流化の可能性があるということ。そういう社会構造になっている。老後の心配はまだ早い、あるいは既にいま生活が苦しく老後の心配どころではないと思っている若い人ほど今のうちに読んでほしい。社会構造を変えるには、若い人の政治参加が欠かせない。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

子どもの頃から哲学者

なるほど、哲学が役に立つとはそういうことか

『子どもの頃から哲学者』 / 苫野一徳 / B6 / 2016年6月 / 9784479392712

哲学史の初級入門書や、あるいは哲学の一部を切り取って面白おかしく紹介する類のエッセイは、既にたくさんある。しかし、哲学そのものの有用性、つまり「哲学は、役に立つ」ということを、誰にでもわかるように書き、哲学の「学」としての魅力をこんなにも豊かに伝える本は、珍しい。なにより、ちょっと面倒な、悩める学生だった著者本人が哲学に出会って救われる体験談の説得力に、たいていの本は敵わない。多くの人には、生きる上でヘーゲル哲学を切実に必要とする場面など想像もできないが、この本には、その生きた実例が笑い話のように書いてある。なるほど、哲学が役に立つとはそういうことか、と納得できる。だから、最後に示される哲学の二大原理(「欲望相関性」「相互承認」)について、もっと知りたい、それについて学べば、私の問題や社会の問題が「解ける」のではないかと思ってしまう。ここまで哲学の可能性に期待させる本もなかなかない。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代

東京どこに住む?

「住」に着目して最新の都市文化を描出。

『東京どこに住む?』 / 速水健朗 / 新書 / 2016年5月 / 9784022736666

日常生活やサブカルチャーの消費の中に政治や階級問題を見出すフィールドワークを「カルチュラル・スタディーズ」と呼ぶならば、速水健朗の一連の仕事、例えば『ケータイ小説的。』や『ラーメンと愛国』はまさに日本版カルチュラル・スタディーズの代表作と言うべきだろう。米国ポートランドに象徴的な新しいライフスタイルを参照しながら、現代日本の食文化・食意識を分節化した『フード左翼とフード右翼』に続き、本作では「住」に着目して最新の都市文化を描出する。ここでも日常に潜む「意識」を言語化し、決して一様ではない社会の実相を、つまり「格差」や「分断」を浮かび上がらせ、私たちがたとえ無自覚であっても十分に政治的な存在であることを示す。とはいえ告発や糾弾の書ではない。その発見をニヤリと楽しむ知的な悪戯として受容するクラスタが想定読者層だろう。ほぼ同時刊行の『東京β』も併読推奨。

レビュアー:野上由人 / リブロ / 男性 / 40代