2014年 1月号
百田尚樹著『至高の音楽』
クラシックの感動にめざめる本
本書の中で、百田尚樹さんはベートーヴェンの「運命」のある部分について「『文学は音楽に敵わない』と思わされる瞬間である」と最大級の賛辞を贈っている。「ある部分」というのは、「第3楽章のラストの不気味に引き延ばされたハ短調の和音が突然、輝かしいハ長調に転ずる」箇所だ。クラシック門外漢の私はそれを読み「えっ、あの『ダダダダーン』の『運命』にそんな部分があったのか」と我が不明を恥じ早速聴いてみた。1回目、なるほどすごいな。3回目、本当に百田さんのいう通りかもしれない。そして5回聴いた頃から、クラシックを聴いて恍惚となる感覚を覚えるようになった。
だが私の感動は、残念ながら、百田さんの19歳のときの決定的な体験には及ばない。大学1回生の夏、百田青年はアルバイトで稼いだお金でオーディオセットを購入。下宿から実家に帰省した際、「クラシックも1つぐらいダビングしてみよう」と手に取ったのが、ベートーヴェンの第3交響曲「エロイカ(英雄)」だった。しかしなかなか「エロイカ」の録音がうまくいかず、録音しながら「エロイカ」を5回繰り返して聴くはめになる。「そして―その時は不意に訪れた。それまで幾度聴いても何も感じなかった私の心に、突然、すさまじい感動が舞い降りてきたのだ。『なんや、これは!』と思った。(中略)今まで音楽で感動したことはいくらでもあった。しかしベートーヴェンの感動は、これまで1度も味わったことのないほど、激しく、深いものだった」。以来30数年、百田さんはほぼ毎日クラシックを聴いているという。
本書はその百田さんが、お気に入りの25五曲+番外編1曲について、聴きどころ、作曲家のドラマチックなエピソード、おすすめCDの紹介などを熱い“百田節”で綴った1冊。ベートーヴェン以外にも、『魔笛』(モーツァルト)や『白鳥の湖』(チャイコフスキー)、さらに『永遠の0』のエピローグの執筆時に聴いた曲も登場する。
(日販発行:月刊「新刊展望」2014年1月号より)
今月の作品
- 至高の音楽
- 百田尚樹
- 「文学は音楽に敵わない」と思わずにいられない瞬間がある…。「永遠の0」のエピローグ執筆時に聴いた名曲など、圧倒的感動の26曲を語る。「風の中のマリア」「影法師」などの執筆時のエピソードも登場。
『至高の音楽』の著者・百田尚樹さんにとっての「トクベツな3冊」
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