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読書日記

今月の作品

鏡よ、鏡
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UNTITLED
30歳、実家暮らしで未婚の桃子のもとに、ある日、「一家のガン」だと思っていた弟の健太から連絡が入る。それは意外な内容で…。ベストセラー『タイニー・タイニー・ハッピー』の著者が描く、新しい家族小説。
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チョコレートの町
不動産会社の支店で店長の遼は、故郷にある店舗に一時的に赴任することとなった。シャッターの下りた商店街、傍若無人な昔の同級生、どこか馴染めない家族…。一刻も早く元の店に戻りたい遼だが、友人の結婚問題や、父親の退職などを経て、徐々に気持ちが変わってゆく。―俺、ここに帰ってきたいのか?「故郷」を持つすべての人の胸に、チクリとした痛みと温かな想いを呼び起こす物語。
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2014年 5月号
飛鳥井千砂
家族と仕事と

○月△日

入院している親族がいるので、何か手伝えることがあればと、郷里の祖母の家に出向く。夜になり、実家の私の家族や親族達も集まってきた。今後のことや昔のことを話したりしながら、血のつながった人たちと一緒に、久々に夕食を囲んだ。

数日滞在した後、帰りの新幹線の中で読んだ『チーズと塩と豆と』(集英社文庫)に収録されている、角田光代さんの「神様の庭」という話が、自分の今の状況とリンクしていて驚いた。

スペインの田舎町で育った女性主人公は、料理人の父が、母が余命宣告されたことを知らせるのに、一族を集めて豪華な晩餐を開いたことが許せない。やがて育った町と家族に反抗して都会に出るが、時が経ち彼女は、自ら家族や親族に料理を振る舞うために、食事を共にするために、故郷に戻る。

この主人公ほどではないものの、私もかつて自分の郷里や家族に、多少の反抗心を抱いて、都会に出てきた。けれど時が経ち、今、郷里や彼らのことをどう思うかと聞かれたら、決して「嫌い」ではない。久々に共に夕食を囲んだ夜も、状況が状況だけに「楽しかった」とは言えないものの、どこかふわふわとして、浮ついた気分があったことは否めない。

そんなことを考えながら、現在の自宅、血のつながらない家族と暮らしている部屋の扉を開けた。

○月△日

劇団四季が上演していたフレンチミュージカル『壁抜け男』を鑑賞。何の予備知識も無しに観に行ったのだが、あまりに好みだったので、後日エーメの原作が収録されている『変身ものがたり』(筑摩書房)を買った。

地味で真面目な役人のデュチユールは、ある日突然、壁を抜けられるという能力を手にする。最初は戸惑うものの、やがて壁を抜けて何でも盗み出し、世間を騒がせる怪盗になる。

舞台では、怪盗になった壁抜け男が、年老いた娼婦に宝石をプレゼントしたり、新聞配達の少年や街角の絵描きと交流したり、「義賊」として活躍しているのがよい。

戦後のフランスにおいておそらく弱者で、差別もあっただろう市井の人々の、仄かな喜び、心の触れ合いに光を当てている良作。

○月△日

先月受けた健康診断の結果が届く。大きな問題はないが、持病の貧血があと少しで怪しい数値で、再検査を勧められる。

長年貧血を患っているせいで、毎朝ただ起きることが、私にとってはかなりの苦行だ。私にもノッカー・アップ(目覚まし屋)さんがいればいいのに、と独り言ちながら、『メアリー・スミス』(アンドレア・ユーレン 光村教育図書)を再読。

ゴムチューブに詰めた豆を吹いて飛ばし、窓にぶつけて人を起こす、ノッカー・アップのメアリー・スミスさんについて描いた絵本。産業革命の頃のロンドンに、実在した人だという。

夜明け前から順番に、パン屋さんを起こし、汽車の車掌さんを起こし、街中を目覚めさせるメアリー・スミス。しかし仕事を終えて家に帰って来たら、自分の娘がベッドでまだぐうぐう寝ていた、というセンスのいいオチには、初読みのとき、声を出して笑ってしまった。

こちらも『壁抜け男』同様、市井の人々の暮らし、仕事にスポットを当てた作品。

いつの時代も、人にはそれぞれに求められる役割、仕事があって、みなが懸命にそれをこなすことで、世界は動いているのだと思う。

私に求められる役割があるとすれば、それはやはり「物語を紡ぐ」こと。だから今日も、原稿に向かう。

貧血の再検査にも、きちんと行こうと思う。私が仕事をするのを待っていてくれる人と、私のことを「嫌い」じゃないはずの、血のつながった家族と、血のつながっていない家族のために。

(日販発行:月刊「新刊展望」2014年5月号より)

今月の作品

鏡よ、鏡
化粧品会社の美容部員として出会った莉南と英理子。まるで対照的な相手に惹かれ、親交を深める。だが、あることをきっかけに、ふたりは人生の選択を迫られる…。現代を生きる女性ふたりの友情と決断の物語。
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プロフィール

飛鳥井千砂
飛鳥井千砂
Chisa Asukai
1979年愛知県生まれ。愛知淑徳大学文学部国文学科卒業。2005年『はるがいったら』で第18回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『学校のセンセイ』『サムシングブルー』『アシンメトリー』『君は素知らぬ顔で』『チョコレートの町』『タイニー・タイニー・ハッピー』『海を見に行こう』『UNTITLED アンタイトル』。

新刊展望のご案内

新刊展望 2014年5月号
【今月の主な内容】
[特集]文豪で遊ぼう 「文豪ストレイドッグス」ほか
[インタビュー]湊かなえさん、樋口直哉さん
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著者関連商品

君は素知らぬ顔で
文具メーカーで働く由紀江は耕次と付き合って半年。気分屋の彼は機嫌が悪くなると手がつけられない。耕次の怒りを理不尽に思いながらも言い返せない由紀江。次第に彼の態度はエスカレートしていき…(「今日の占い」より)。とある女優の成長を軸に、様々な時代を生きる人々の心のささくれを丁寧に描いた六編。最後に新鮮な驚きと爽やかな感動が待っている、連作小説の傑作。
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