2013年 11月号
『織田作之助の大阪』
都市・大阪、地元・大阪への果てしなき愛
いま「オダサク」と聴いて、どれくらいの人が作品名を挙げられるだろうか。かつて太宰治、坂口安吾と並び“無頼派”と並び称されたオダサクこと織田作之助は、今年生誕100年を迎えた。8月から9月にかけて代表作『夫婦善哉』のドラマ(4回連続、NHK総合)が放映され、森山未來、尾野真千子という人気俳優による共演が大きな話題となった。そちらをご覧になって、初めて知ったという方も多いかもしれない。そうした中、オダサクと大阪の深い繋がりからその魅力に迫る一冊としてお届けするのが本書である。
まず池内紀氏による巻頭エッセイを読んでいただきたい。オダサクの本性を示す興味深いエピソードが綴られている。人物ポートレートで著名な写真家・林忠彦は戦後すぐ、のちに日本の写真史に記憶される作品を撮影した。バーの椅子の上に編み上げ靴を履いたまま足を放り出す太宰、紙クズだらけの仕事部屋で、斜め俯瞰から構えるカメラを睨みつける安吾。広く世に知られるこれらの名作写真は、どちらも林の代表作だ。しかし、林にはオダサクを捉えたまったく同時期の撮影がある。なんとなく人の好い兄ちゃんに収まるオダサク。翌年には死ぬ運命だというのに、悲壮感すら見えない。太宰や安吾の印象とはなんだか違う。この落差はいったい何なのだろう。
「爛熟した大阪文化の申し子」と池内氏はいう。劇的で、ヒリヒリするような空気感を醸す先の2人と、西鶴など町人文化の継承者たる自認のある者とでは、どうしても隔たりは否めない。この写真の対比などは、育まれた資質の違いがそのまま美意識にも反映された格好の例といえるだろう。それが『アド・バルーン』『木の都』など、その時代、その土地の醸す雰囲気とそこに生きる人とがいつも並び立つことでしか成立しない、唯一無二の世界観を支えたのではないか。
作家の見つめた場所、店、愛したものはたくさんある。本書が新たな魅力を開拓していただくきっかけとなれば嬉しい。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年11月号より)
今月の作品
- 織田作之助の大阪
- オダサク倶楽部
- 大正・昭和の大阪を舞台とした名作『夫婦善哉』の作者として著名な「オダサク」こと織田作之助。代表作を中心に作家ゆかりの土地や店を訪ね、古き良き人情の街をめぐる。生誕100年記念号。