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特集・対談

2012年 6月号 ◎特集 古事記1300年

【対談】 こうの史代×大塚ひかり

古事記のおもしろさいろいろ
日本最古の神話『古事記』の魅力。
現代人にこそ効く!その理由とは?

こうの史代 Fumiyo Kono
漫画家。一九六八年広島市生まれ。九五年『街角花だより』でデビュー。二〇〇四年『夕凪の街 桜の国』で第八回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第九回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。その他の著作に『この世界の片隅に』『長い道』『ぴっぴら帳』『こっこさん』『さんさん録』『平凡倶楽部』等。最新刊は『ぼおるぺん古事記(一)天の巻』。同作は「ウェブ平凡」で連載中、(二)地の巻・(三)海の巻は今秋発売予定。

大塚ひかり Hikari Otsuka
エッセイスト。一九六一年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒。主な著書に『ブス論』『愛とまぐはひの古事記』『快楽でよみとく古典文学』『源氏の男はみんなサイテー』『カラダで感じる源氏物語』など古典エッセイのほか、個人全訳『源氏物語』(全六巻)、『歯医者が怖い。』がある。今夏、古事記の本を刊行予定(中公新書ラクレ)。

神話の底力

大塚 私は十三年前、「口腔神経症」とか「歯科心身症」と呼ばれる心の病になってしまったことがあります。ストレスが胃に出る人は多いですが、この病気はストレスが口腔内、歯に出る。噛み合わせが悪いと感じたり、虫歯が既に治っているのに痛んだり。症状のひどいときは、長年読み慣れた『源氏物語』がつらくて読めなくなってしまいました。でも『古事記』は読めたんです。もともと日本史専攻なので源氏物語より古事記のほうが好きというのはありましたが、そのときは神話の底力を感じましたね。古事記って動物や神の物語だから一見するとリアルではないのに、でも実はすごい世界が展開される。

こうの そうですね。読み込むと心の細かい動きがリアルだったりして。

大塚 気負わずするっと入っていけて実は……というところは、こうのさんの漫画によく似ていると思います。やわらかい絵柄ですうっと入っていけるけれど、読んでいくうちに自分の現実以上に凄惨な世界が描かれていたりするじゃないですか。

こうの 古事記にはいろいろなキャラクター、いろいろな境遇の人がいるから、読む人が自分の立場によって感情移入する部分が違う。それもいいところですよね。

大塚 それが源氏物語のように現実的過ぎると、あまりにも自分に向き合う感じでつらいんです。でも古事記に出てくるのは神や動物だから。  『ぼおるぺん古事記』は、文字の部分はほぼ原文そのものを書かれていますよね。

こうの 読み下(くだ)し文から、原文にない敬語を全部省いたものを作りました。でもそうすると意味がわからないままだったりする。

大塚 もともと古事記は訓読できないと言われていますね。

こうの それを絵で伝えられればと。自分で絵にしてみて初めて気づいたことが結構ありました。たとえば、イザナキが、死んでしまったイザナミを黄泉(よみ)の国から連れ帰ろうと会いに行くところで、野ブドウやタケノコが出てきますよね。これは鍾乳石と石筍のことなのではないか。見た目から連想しているのではないかと。

大塚 それはすごい新発見ですね。

こうの 根の国に雷神(いかづちのかみ)がいるのは、木の根っこが稲妻に似ているからなのかなと思ったり。

大塚 確かに絵的に似ていますね。

こうの スサノヲの名前も雷が関係しているという説もあるようなので、根っこと雷は感覚的につながっているのではないかとか。実際に描いてから初めて、そういうことに気がついたんです。

大塚 絵を描く人ならではの感性ですね。絵にするのって大変でしょう。

こうの でも、証言者が今生きている人にはいない時代なので、わりと好きにできるところもあって。他の作品で六十年前の話を描いたときなんかは、少しでも違うと指摘されたりしたので、そういうのがない分、気が楽でした。神様のお話ですしね。そこでかえって、より内面に深く入れるものが描けるような気はしています。

大塚 古事記は、源氏物語のような細かな心理描写などはないですが、だからかえって心理が浮かび上がるということはありますよね。

こうの そうなんです。実際に知り合いや友達が語っているような、たぶんこんな表情でこんなふうに語って、こう思っていたんだろうなというのが、現実とすごく似た感じで入ってくるのだと思います。

生まれたての日本語

大塚 『ぼおるぺん古事記』は章題が「なれりなれり」「あなにやしあなにやし」「うみうみ」など、すべて反復語になっているのがいいなと思います。日本語はそもそも英語などに比べると反復の擬音語が多いと言われていて。

こうの 東南アジアの影響とも言われますよね。

大塚 佐藤雅彦さんの本(『考えの整頓』)に書かれていましたが、言葉を覚えたての子どもは二回反復して言うじゃないですか。「トンネルトンネル」「さかさか」とか。古事記は、言葉を覚えたてというのではないですが、文字がまだ日本になかったような時代に漢字を借りて書いていったわけで。

こうの 大変な努力ですよね。

大塚 それは生まれたての日本語とも言っていいようなものだと思います。「塩こをろこをろに画き鳴して」(海水をこーろこーろとかき鳴らして)とか。

こうの 私が古事記を好きなのは、効果音がおもしろいところです。それをわざわざ当て字を使ってまでそのままの形で残さなければというこだわりがいい感じで(笑)。

大塚 昔話の「どんぶらこっこすっこっこ」みたいな音の楽しさ、それが古事記にはありますよね。そういう懐かしい感じが、章題の反復語から伝わってきました。

こうの イザナミの腐乱死体が「うじたかれころろきて」(ウジがたかって、鳴き声が聞こえるほどひしめいている様子)というのもおもしろい。

大塚 「ころろく」という動詞になっていますからね(笑)。

こうの 「塩こをろこをろ」と「うじたかれころろきて」がおもしろいなと思って、その後イザナキが禊ぎをしてアマテラスに首飾りをかけるところで「もゆらに取りゆらかして」(玉が触れ合って、音を立てる様子)という言葉を見て、「これは漫画にしなくては」と心の中で決まった感じでした。

大塚 一面に漢字がびっしり並んだ巻頭の四ページ、これは原文を全部手書きで写したものですよね。どうしてこんな大変なことを。

こうの 気分を盛り上げるために(笑)。とりあえず全部書き写して、だいたいの感じをつかもうと思って。

大塚 読み下しは人によっていろいろ違いますが、これがまさに原文ですものね。全部漢字。こうのさんの原文主義というか、古事記を尊重している感じがすごく伝わってきました。

こうの ありがとうございます。全三巻で神武天皇が生まれたところまで描こうと思っていて、そこまでの原文は一応書き写しました。第一巻はオホクニヌシが生まれるところまで。漫画もそこまでの十一話です。

大塚 『ぼおるぺん古事記』というタイトルは、ボールペンで描いていらっしゃるからですか。

こうの そうです。ボールペンって昔はあまり質が良くなくて、漫画の原稿には使ってはいけない画材の代表みたいに言われていたんですが、今は質が向上して、ボールペンで描いている方もちらほらいます。やってみたら意外におもしろかったです。

大塚 すごくやわらかくていい感じですよね。

こうの ボールペンだとどこでも描けるのもいいです。

大塚 神がたくさん出てくるので、描き分けるのは大変だったでしょう。

こうの 一回こっきりしか出ない神も多いので、最初に索引みたいなのを自分で作って、何度も出てくる神はそれなりにわかりやすい見た目にして。その辺に気を配りました。

(日販発行:月刊「新刊展望」2012年6月号より)

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新刊展望 6月号
【主な内容】
[懐想] 円城 塔 高楊枝、身に刺さりつつ
[対談] 古事記のおもしろさいろいろ こうの史代・大塚ひかり
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