2012年 6月号
『異性』
男と女を、とことん考察してみると!
自分たちが当たり前だと思っていることほど、言葉にするのが難しいことはない。確かに女は、男に比べて終わった恋をひきずらない場合が多い。そしてたいてい男は、別れた恋人のことを、女ほど悪くは言わない。でも「それはなぜ?」と訊かれると、答えるのは意外に難しい。せいぜい「だって女だし」「男はそういうもの」と言えるぐらいだ。
角田光代さんと穂村弘さんの初顔合わせとなった『異性』だが、きっかけとなったのは、雑誌「文藝」での恋愛をめぐる対談だった。「なぜ女性は、突然嫌いになるのか」が話題になった時、お二人は絶妙な喩えを用いながら話を進めていった。「女性の恋愛はスタンプ式。減点スタンプがいっぱいになったら即終了」「男性の恋愛は、照明でいえば調光式。だから突然、ばちんと消えることはない」などなど。対談が終わる頃には、編集部一同、視力がアップしたのかと思うほど、視界良好。すぐにwebでの連載をお願いした。
男と女は互いにひかれあいながらも、どうしてわかりあえないのか?─それぞれ男と女の立場から往復書簡のようにやりとりされた連載は、二年間続いた。前のエッセイをバトンのように受けて、交互に書き継いでいくのだが、前回のエッセイのディテールが、思わぬ形で次にフォーカスされたりと、毎回テーマが予想できないライブ感があり、こんなに原稿が待ち遠しい連載はなかった。
時にお二人の考察は鋭すぎて、たとえば角田さんが列挙した「女性とつきあったことのない男性」の条件や、穂村さんの「男にとって、かつて交際した女性は、彼の資産目録に載っている」という指摘には、思わず悲鳴をあげた。話題が、男女の所有感覚の差から男女の母子関係の違いにまで広がることもあって、どんな心理学の本を読むより、その視点の斬新さに驚いたりもした。
読者の方々の反響もうれしかった。今までの恋愛本は、恋愛は自然にできるものというのが大前提でハードルが高かったとの感想もあった。そういう意味でも、全く新しい恋愛エッセイかもしれない。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年6月号より)