2012年 6月号
平山瑞穂Mizuho Hirayama
専業作家になって一年が過ぎた。デビュー以来数年間、小説好き読者の高い支持を得るジャンルレスな作品を年二〜三冊ペースで刊行─そんな精力的な執筆活動を会社員生活と両立させてきた。「兼業もそれなりに快適だったけど、体力的には限界を迎えていた感じ。もっと早くこうしていればよかった」。時間の制約がなくなったことで執筆量は「増え過ぎて困っている(笑)」ほど。出版待ち作品が複数控えているといい、ファンにはうれしい限りだ。「生活時間に余裕ができたら着想も生まれやすくなって。近所の公園を散歩しているとアイデアがぼこぼこ出てきます」
新刊『出ヤマト記』は、著者自身が「新機軸」とも語る社会派小説。下敷きにしたのは、「北」の某国にまつわる史実だ。「地上の楽園」を目指して異国を彷徨う一人の少女の姿を描く。旧約聖書「出エジプト記」にちなむタイトルや、異なるフォント・文体で表された章の意味、思わぬ展開を見せる物語……かの国を世界中が注視する今だからこそより一層、読むほどに興奮が高まる一冊なのである。
黒の鏡面仕上げと曲線がお洒落なデスクは、専業作家になって間もなく購入したもの。「兼業時代には、サイドボードの上にパソコンを置いて狭いスペースで不自由しながら書いていました。新しいデスクを買う時間的余裕さえなかったんです。やっと普通の状態になれたかな(笑)」。写真右手の壁際には、天井近くまで本がびっしり詰まった書棚とFAX兼コピー機が置かれている。腕の中にいるのは愛猫クーちゃん。「藤城清治さんの影絵に描かれたこびとに似ているなあとずっと思ってます」
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年6月号より)