2012年 5月号
橋本 紡Tsumugu Hashimoto
隅田川を眼下に臨むマンションの高層階。「住んでみて、なんだか落ち着くなあと思ったら、ふるさとの伊勢に似ているんです。川の色や流れが。しかも、江戸時代にこの辺りの治水事業を行った河村瑞賢という人物は先祖にあたるらしくて。なんとなく引っ越してきた場所だけど、実は呼ばれたのかも(笑)」
小説は、湧き上がってくる水のようなもの。自分を「きれいな水が流れる管」にすれば、小説は自ずと出来上がっていくのだという。そのためにも、執筆前は約二十時間ひたすら眠る。「ふっとスイッチが入る瞬間があって、そうしたらぱっと起き上がって書き始めます。二、三時間書くとくたくたに疲れて、また二十時間眠って。その繰り返しですね」
本誌連載小説「家飯」が本になった。題して『今日のごちそう』。「原稿用紙十枚の物語を二十四話。小説の筋トレみたいな連載でした(笑)」。季節の移ろいと料理のある風景をバックに、老若男女さまざまな主人公のドラマが繊細に綴られる。読む人読む時それぞれに好きな物語が見つかるだろう贅沢な一冊だ。
ベッドの横にパソコン。「眠って、起きて、書く」一連の動作が完結する執筆部屋である。パソコンのモニターは四十インチの大型テレビ。「アンテナをつないでないのでテレビとしては使っていません。画面が大きいと同時にいろいろなことができて便利ですよ」。パソコンもその台も、別室の本棚も、「我が家の家具は全部自家製です」。BGMはマーラーの交響曲など。ベッドの上に愛猫ちゃろくんが陣取り、スピーカーの上には「ふと気付くと、娘が置いていった松ぼっくりがこんなところに!」
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年5月号より)
今月の作品
- 今日のごちそう
- 今日も明日も、ごはんを食べる。ひとりで、ふたりで、家族そろって。誰にでもある、ごくふつうの日の料理の風景を、繊細に丁寧に綴った23の物語。それぞれのメニューに材料リスト付き。