2013年 2月号
『UFOはもう来ない』
SFファンも、SF初心者も
前作『去年はいい年になるだろう』(星雲賞受賞作/PHP文芸文庫)のタイトルにも唸らされましたが、本書のタイトルを著者の山本弘さんから初めて聞いた時、「えっ」と思ったのを今でも覚えています。UFOが来るのではなくて、もう来なくなるのかと。
物語の設定では、UFOはすでに地球に来ています。地球上で核兵器が初めて使用されたことで、地球外生命体スターファインダーは”地球の監視”を密かに始めていました。そして監視を続けた結果、ある危機が迫っていることがわかり、”最終シークエンス”なるものの発動を決定する……。
と聞くと、ハードなSFかと思うかもしれませんが、決してそうではありません。物語で活躍するのは、事故で地球に取り残されたスターファインダーを見つけた三人の小学生と、その連絡を受けたテレビのディレクター、美人UFO研究家です。彼らとUFOカルト教団が、スターファインダーをめぐってコンゲームを展開するエンターテインメント作品ですので、SFを読み慣れていない方でも安心して読めるのです。
かといって、SFファンは楽しめないかというと、そんなことはありません。巻末の解説「スターファインダーの生態と文明」にも詳細に書かれていますが、緻密に築かれた世界観の上で物語は展開し、クライマックスでは銀河の歴史が解き明かされるという、SFならではの壮大なスケールを楽しめるはずです。
また、「異なる文明・常識を持つ者同士はわかりあうことができないのか」は、山本弘作品の重要なテーマの一つです。人間とアンドロイドを取り上げた『去年はいい年になるだろう』に続き、本書においても、人間と地球外生命体との関係でこのテーマに挑んでいます。
エンターテインメントとして楽しみながらも、深く考えさせられる─SFの醍醐味を存分に楽しんでいただきたいと思います。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年2月号より)
今月の作品
- UFOはもう来ない
- 山本弘
- 地球は、監視されている。最終シークエンスが発動、UFOカルト集団に拉致された地球外知的生命体。そして銀河の歴史が解き明かされる。感動のSF長編小説。巻末に解説「スターファインダーの生態と文明」を収録。