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特集・対談

著者関連商品

眺望絶佳
客に共感メールを送る女性社員、倉庫で自分だけの本を作る男、夫になってほしいと依頼してきた老女…。自分らしさにもがく人々の、ちょっとだけ奇矯な日々。もの悲しくも優雅な東京短篇集。中島ワールドの真骨頂。
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小さいおうち
【直木賞受賞作】女中奉公の記憶を綴るタキの胸に去来する、昭和の家庭風景と奥様の面影、切ない秘密。そして物語は意外な形で現代につながり…。昭和モダンの記憶を綴るノートに隠された密やかな恋愛事件。懐かしく苦い記憶の物語。
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さようなら、コタツ
15年ぶりに、しかも誕生日に、部屋に恋人未満の男を招くことになった36歳の由紀子。有休を取り、ベッドの到着を待ち、料理を作って待つが、肝心の山田伸夫が…来ない!表題作ほか“7つのへやのなか”を、卓越したユーモアで描く傑作短篇集。
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ブックガイド

「東京」
読む・観る・歩く
ここ半年の新刊を中心に。スカイツリー本や下町ガイドブックは、この他にも楽しい本が続々出版されています。
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東京タワーズ
谷口巧
そこにはいつも東京タワーがあった。七年間撮り続けた、シンボルタワーのある風景。
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スカイツリー東京下町散歩
三浦展
押上、向島、北千住、小岩など、明治以来の東京の広がりによってできた新しい下町。町の歴史、個性、魅力を探り出した「新東京論」。
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東京ドーン
早見和真
新橋、北新宿、成城、十条、二子玉、碑文谷。東京に暮らす若者を描いた連作集。注目作家が描く、今の「二十七歳」への応援歌。
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厩橋
小池昌代
十七年前、厩橋で拾われた赤子は月子と名づけられ、美しい女に成長した。スカイツリーの足下に広がる町を舞台にした長編小説。
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2012年 7月号

【特集】 東京タワーとスカイツリーのある「東京」

新名所もオープンして盛り上がる「東京」。本の観光案内。

インタビュー 中島京子さん
眺望絶佳』で描いた東京

中島京子 Kyoko Nakajima
一九六四年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒。出版社勤務、フリーライターを経て、二〇〇三年『FUTON』でデビュー。一〇年『小さいおうち』で第百四十三回直木賞受賞。『さようなら、コタツ』『イトウの恋』『均ちゃんの失踪』『桐畑家の縁談』『ツアー1989』『平成大家族』ほか著書多数。『エ/ン/ジ/ン』を改題した『宇宙エンジン』(角川文庫)八月下旬発売予定。

〈東京タワーとスカイツリーのある「東京」〉を感じるのにぴったりの小説をご紹介したい。中島京子さんの「東京」短篇集『眺望絶佳』である。
八つの短篇によって描かれるのは、東京タワーとスカイツリーの足もとで日々を営む人たちの姿。しみじみと味わい深い物語あり、ファンタジー香る不思議系あり、ちょっとアイロニカルな話あり、思わぬどんでん返しが仕込まれた見事な一編あり……さまざまなテイストの上質な小説が、この一冊に詰まっている。そして、巻頭と巻末に置かれた章「眺望良し。」は、東京タワーとスカイツリーによる「往復書簡」なのである。
私たちがスカイツリーや東京タワーを地上から見上げるとき、あるいはそれぞれの展望台から眼下に東京の街を見渡すとき――目に映る風景や心の中に湧き起こる思いは、この本を読む前と後で違ったものになるかもしれない。そんな小説集でもある。
眺望絶佳』と「東京」について、著者に聞いた。


東京の「今」を切り取る

―『眺望絶佳』の各作品(「眺望良し。」以外)は、「デジタル野性時代」二〇一一年一月号〜八月号に連載されたものとのこと。連載はどのようなコンセプトで始められたのでしょうか。

中島 東京を舞台にした連作を書こうと考えました。それがちょうどスカイツリー建設中の時期だったので、「現在の東京=スカイツリーのある東京」として書いてみようと。
私は東京近郊育ちで、一番よく知っている街が東京です。ですからデビュー作(『FUTON』)をはじめ、東京の話はよく書いています。「東京が時代の中でどう変わっていくか」ということが常に頭にあるようなんです。東京に今あるものと今はもうなくなってしまったもの。いつもそれを感じているので、折に触れて出てくる。これはきっと私が抱えているテーマの一つなんだろうなと思っています。

―どの物語にも、現代社会、それも二〇一一年の世相が色濃く映し出されています。建設中のスカイツリーはもちろん、東日本大震災、資産家姉妹の孤独死事件、ブログの交流から発展した傷害事件、フェイスブックで見つけた同級生、ネグレクト……。中島京子さんという作家の目を通した現代社会の縮図であるとも言えますね。

中島 この連作を書くにあたっては、今ここにあるもの、今起こっていることを切り取りたいという気持ちがありました。そして、ピンポイントで自分のアンテナに引っかかってきたものを意識的に拾おうと。書き始めたのは二〇一〇年の終わり頃ですが、実際には二〇一一年そのものでなくても、ここ数年の間に起こった出来事で私のアンテナに引っかかっていたものをこの短篇集に入れました。

―書き下ろしの二編「眺望良し。」は、「先輩の彼女」=東京タワーと「後輩の彼」=スカイツリーの往復書簡となっています。このワンダフルなアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

中島 東京タワーはスカートのような形から女性かなと自然に思ったんです。でも、もしこれが逆だったら……東京タワーが説教くさいおやじになってしまってやりきれないのでは(笑)。それに、東京タワーとスカイツリーの関係は恋人同士というわけでもなく、「同じ仕事をする年上の人と若い人」のイメージ。そう考えると、「女性上司と若い男の子の新人」が今日的な気もしました。

―初々しいスカイツリーの【往信】、人生の深みも感じられる東京タワーからの【復信】。いずれも心に沁みる手紙です。

中島 往復書簡の形にすることは最初から考えていたわけではありませんでした。最初のコンセプトは、今の東京を切り取ること。でも私の性質として、古いもの、もうなくなってしまったもの、今にもなくなりそうなものにどうしても目が向くんですよね。「昨日までここにあったあの建物はどうなったの?」とか。それが自分らしい物事の見方で、『小さいおうち』のようなノスタルジックな話が出てくる要素なのだと思います。今回の『眺望絶佳』でも、たぬきの兄弟と老女の話(「よろず化けます」)、小さな出版社の女社長の思い出(「倉庫の男」)など、いくつかそういうものが入ってきました。そうして書いているうちに、スカイツリーが立ちつつある東京の風景は、東京タワーがずっと見ていた東京でもあるんだなという思いが強くなってきたんです。それで「二つの塔がある東京」の短篇集となり、二つの塔の往復通信を入れることにしました。

―東京タワーの手紙には、中島さんご自身の深い思いが込められているのではないかと感じました。

中島 年齢的にはスカイツリーより東京タワーのほうが近いこともあって、東京に対する自分の思いは入っているかなと思います。東京タワーが立ったのは昭和三十三年。五十年以上前なのでその全部を私は知っているわけではないですが、「あなたは長いこと立っていたよね」という気持ちもあります。それとスカイツリーはあまりに大きすぎてちょっと好きになれないというか……(笑)。考えてみれば、東京タワーも以前はそんなに好きではなかった気がします。ただ長い間そこに立っているから、なんとなく「アイツと一緒に何十年」みたいな親しみの情があるんですね。そうすると、突然現れたスカイツリーというでっかいアイツも(笑)、これから先をこの東京で生きる人たちと一緒に歩んでいくわけで、今後五十年、あるいはそれ以上先の東京というのは、もしかしたら私が見ることのできない東京なのかもしれなくて……そんなこともいろいろ考えながら、この往復書簡を書きました。

変わり続けていく街

―紙媒体ではなく電子書籍型文芸誌「デジタル野性時代」での連載体験はいかがでしたか。

中島 書くことに関して特に勝手が違うということはありませんでした。ただ、連載当時は私自身が電子書籍を閲覧できる端末を持っていなかったので、「どこで連載されているのやら」という感じで(笑)。今でも、この作品集は空のどこかで連載されていたような感覚があります。もともと、具体的な場所の名前をはっきり書いている部分は少なくて、私たちが生きているこの東京にそっくりの「もう一つの東京」みたいなイメージもあったので、そこは通じるものがありますね。ちなみに連載時のタイトルは「空の木通信」でした。

―東日本大震災は連載中の出来事だったんですね。

中島 「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」を書いていたときでした。土臭いものと、それが嫌でお洒落に生活したいお母さんのコミカルな短篇をと考えて、オール電化の高層マンション、亀を飼いたがっている子ども、宅配で土偶が送られてくる……その辺まで書いたところで地震が起こったんです。締切は数日後に迫っている。これをこのまま書き続けるのか、それとも全然違う小説を書くのか、あるいはこれを書くけれど震災のことは書かないのか、書くにあたっては震災のことを書くのか。そんな選択をしなくてはいけなくなったわけです。
震災に触れずにこのまま書き続けるのは無理だろうと思いました。私自身の頭がそれから離れないということも大きかったですが、読み返せば読み返すほど、そのことを書くようにできていると感じてきたんです。それで、いろいろ考えた末に書くことにしました。ただ、今ならそんなに迷わないと思いますが、そのときは地震直後だったので、書いてしまっていいのか、こういうアクチュアルなことを書いては読んだ人が不快になったりしないだろうかという危惧みたいなものもありました。けれども、今あそこに塔が立っていっている東京を書いた連作小説の中で、あの地震が起こらないなら、それはまさにアナザーワールドになってしまう。日本で大変なことが起こって、東京はそれを体験しているわけだから、それを書かないというのは私が今選択することではないと思ったんです。
連載をしているのでなければ、「今書くことではないかな」などと考えて、書いていなかったのではないでしょうか。だから連載小説というのはおもしろい効果があると、これを書き上げて一冊にしたときに思いました。自分自身の動揺やそのときの考え、いろんなものが書き込まれてしまうので。結果的には、書いておいてよかったのかなと思っています。

―ご自身でお好きな作品はどれですか。

中島 みんな自分の書いたものなので思い入れがあって、一つ一つどれも好きです。まわりで好評なのは「おさななじみ」。これ、私の中の「結婚小説」として会心の作なんです(笑)。長く海外生活をしてきて、過去の自分と現在の自分を繋ぐものが東京にはもうないと思って帰国した彼。でも「彼女」が待ってくれていた……。それは、この本全体のテーマ、ずっとそこに立っていた東京タワーの姿にも通じるような気がします。そして、その人の人生を一つの線に繋ぐような存在が誰にとっても必要で、それがパートナーというものなのかなと。
作品集としては、とても自分らしい一冊になったと思います。ちょっと懐かしいものにひかれている感じや、現代性の切り取り方に私らしさが表れていて。自分の中の大きなテーマであるらしい「東京」を書いたという意味でもそうですね。

―この本を書かれたことで、東京に対する見方や思いは変わりましたか。

中島 私の中の「東京」のイメージは、神田須田町辺りの老舗レストランや百年続くお蕎麦屋さんだったりします。古い建物を眺めたり、「ここには前に何があった」などと思いながら歩くのが好きで、放っておくとノスタルジーに浸ってしまう人間なんです。でも、この小説を書いて、そして東日本大震災があって、「これからのこと」を考えるようになりました。
これからも東京の街は呼吸し、変わり続けていく。残すべきものを残しながら、変質していく。それを見て、いずれまた何か書くのかもしれません。東京はこれからどうなっていくだろう。どういう方向に変わっていくんだろう。そのよりよい方向とはどういうものだろう。東京に対するそんな関心が、少し強く意識されるようになったかなと思います。東京のおもしろさは、「変わっていくこと」でもあるんですよね。

(日販発行:月刊「新刊展望」2012年7月号より)

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【主な内容】
[懐想] 梶尾真治 異世界としての熊本
[特集] 東京タワーとスカイツリーのある「東京」 泉 麻人/中島京子
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