2013年 5月号
『戊辰繚乱』
「幕末」イヤーにぴったりの一冊
2013年は、新選組結党150周年の記念すべき年だそうで、大河ドラマは会津藩がフィーチャーされた「八重の桜」ですし、そういった意味でこの小説はとてもタイムリーで、いままさに読まれるべきものではなかろうか、そうに違いない、間違いなくそうだ! と盛り上がりつつ確信しております。
小説すばる新人賞受賞作の『桃山ビート・トライブ』で2007年にデビューされた天野純希さんは名古屋育ちでいまも在住(永住予定だとのこと)の33歳。初の幕末物となる今作は、30代前半のいまだからこそ書くことができたといっても過言ではない青春歴史小説です。
主人公は会津藩士の山浦鉄四郎。のちに新選組に入隊し戊辰戦争を戦い抜くことにもなります。かれが愛するヒロインは、中野竹子という美しき薙刀の達人です(「八重の桜」では黒木メイサさんが演じられるそうです)。
ふたりの恋の行方(恋、とひとことでいいましたが、好きです嫌いですで片付けられる類のものとは、まったくもって違っており、ユーモアに満ちていて、楽しいです)をおいかける按配で、この『戊辰繚乱』を読み進めていきますと、激動の世、時代の変化に巻き込まれた若者たちの苦悩が徐々に自分自身のこととして感じられるようになり、やがて終章のひとつ前、第六章の「血戦」にいたり、天野さんご自身も書くのがつらかったというある場面にまで到達したときには、なんでこんなことが起こってしまったのだと、切なさで胸がいっぱいになってしまうこと必至、頁をめくるのがつらくなり、かといって途中で止めることはできず、さてどうしたものかという、複雑で充実した読書体験をお楽しみいただけるはずです。
普段歴史物は読まないのです、という方にも強くプッシュしたいです。幕末の若者たちの痛みに満ちた現実、が活写されており、「歴史」を取り外して読んでも抜群に面白い青春小説だからです。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年5月号より)
今月の作品
- 戊辰繚乱
- 天野純希
- 江戸に暮らす会津藩士、山浦鉄四郎。ある日、美しき薙刀の達人、中野竹子に団子泥棒呼ばわりされた瞬間、恋に落ちる。やがて新撰組隊士となった山浦は、竹子に会うため、刀と心を血で染めながら進んでいく…。