2012年 9月号
『千夜千冊番外録 3・11を読む』
最深部に迫るブックガイド
東日本大震災から一年五ヶ月が経つが、今でも時々、そのイメージが甦る。津波によってあっという間に押し流されていく町、爆発で建屋が吹き飛ばされた福島第一原発、ただぼんやりと体育館に座っている人々等々。その忘れられない光景のひとつに、震災から数日後の、がらんとした大書店がある。皆がテレビとネットにかじりついていたからなのだが、いったいこの現実に本は何の役に立つのか、と自問もした。
その思いは、実は松岡正剛さんも抱いていたものだった。松岡さんは二〇〇〇年三月より「千夜千冊」という書評のブログを立ち上げ、一四〇四夜まで続けた時に3・11に直面する。「これは困った。『千夜千冊』にどの本をとりあげていいのか、わからない。迷いもした」(本書「あとがき」)。けれども、ここで止まってしまってはいけないと力を振り絞って、ウェブ上に「千夜千冊番外録」をスタートさせる。そして二ヶ月後の五月初めには、「居ても立ってもいられなくなり」、単身で被災地を訪れ、連載を続けて次のステップに進んでいく覚悟を固めている(ちなみにカバーに描かれた線はその時の松岡さんの足跡である)。
つねに物事を冷静にとらえ、アワアワしている様子が想像できない松岡さんだが、さすがに3・11には大きな衝撃を受けたのだ。
そう思って探してみると、地震や原発、東北に関して鋭い視点で考察した本、予言的な本が数多くあった。それらとともに、震災以後に次々に刊行された書籍・雑誌を読み、約一年にわたり「番外録」の連載を続ける。本書は、その連載を「大震災」「原発問題」「フクシマ」「事故とエネルギーとエコロジー」「陸奥と東北」のテーマに沿って再構成し、新たな生命を与えたものだ。
ここで取り上げた六十冊でブックフェアを行う書店さんがあるとの、うれしいニュースも聞く。この書物で「本の実力」を感じとっていただければ幸いである。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年9月号より)
今月の作品
- 千夜千冊番外録 3・11を読む
- 3・11の時代、この60冊から日本の行方が見える。大震災と原発問題への松岡流ブックガイド。多くの関連本から何をどう読めばいいのかを案内し、問題の本質に鋭く迫る。ウェブ「千夜千冊番外録」待望の書籍化。