2011年 11月
木内 昇Nobori Kiuchi
東京近郊の住宅街にある、一軒家に暮らす。一階にある洋室は、以前は資料本などが積み上がる、まさしく「仕事部屋」だったが、来客が多いこともあり、執筆はもちろん打ち合わせもできる現在のようなスペースに模様替え。まめに入れ替えをするという作り付けの書棚には、古い本も多く並ぶ。古道具屋で見つけた家具など味わいのある調度と相まって、ゆったりと時の過ぎる、木陰のような居心地の良い空間だ。
『笑い三年、泣き三月。』は、万歳芸人の善造、戦災孤児の武雄、映画監督を目指すも挫折した復員兵・光秀が、終戦直後の浅草で出会うところから幕を開ける。三人は開業したばかりのストリップ小屋「ミリオン座」で共同生活を始めるが─。浅草という町の独特な空気感と、戦後すぐの「やけっぱちな明るさ」ともいえる人々のたくましさ。それらを言葉や匂い、視覚で巧みに盛り込みながら、「生きていくこと」のおかしみと哀しみを描き出す。愛すべき人生が交錯し、いくつもの名台詞が心に響く、作家の胆力を感じさせる力作だ。
「趣味が本当にないので、作らなきゃ(笑)」という木内さん。「趣味が仕事になっているところがあるので苦はないのですが、資料を読んでいると〈今日も遊んでしまった〉と仕事をしている実感がないんです。編集をやっていたときは捌くものが山のようにあって、一つ一つ片付けていくと達成感があったのですが、作家の仕事はその日に完結するわけではないので、区切りがつかなくてオンとオフがない感じ。泳ぎに行ったり、友だちとご飯を食べに行くのが息抜きですね」
(日販発行:月刊「新刊展望」2011年11月号より)
今月の作品
- 笑い三年、泣き三月。
- 旅芸人、復員兵、戦災孤児。終戦直後、焼け跡で出会った男3人。年齢も境遇も違う彼らは浅草のストリップ小屋で家族のように暮らし始める…。直木賞作家による骨太エンターテインメント。