2013年 8月号
畑野智美Tomomi Hatano
デビューから3年、一作ごとにファンを増やしている新鋭作家だ。六畳間の自室が仕事場。「机と椅子を最近買い替えて、本棚も一つ増えて。やっと環境が整った感じです」
20代の頃は「いつか小説家に」の強い志を抱きながらアルバイトの日々を送った。「貯金通帳を見ては時給の計算ばっかりしてました。夜中や明け方までバイトしていたことも。今は朝10時から書く生活。シフトじゃなくて働く時間を自分で決められる。でも計算するのが時給から原稿料になっただけで、基本的な部分は変わらない気がします(笑)」
新刊『南部芸能事務所』はお笑いの世界が舞台。芸人を目指す大学生男子を主役に、弱小芸能プロダクションでの人間模様を描く短編連作集。「作家になる前から『私が書く!』と思ってきた」小説だという。幼少の頃からお笑い好きで、夢叶う日まで長くフリーター生活を経てきた著者だからこそ紡ぎ得た物語でもある。早くもシリーズ化が決定。実在のお笑い芸人を当てはめてみたり、お気に入りの登場人物を見つけて読むのも楽しい。
壁にフランス版「天空の城ラピュタ」ポスター。着ているのは星野源のライブTシャツ。「ジブリ、好きです。星野源、大好きです」。机の前の「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」ポスターに「強くなるんだ!」と励まされながら書いたという「国道沿いのファミレス」で受賞・デビューを果たした。「だからいまだに剥がせません」。蔵書には広瀬正、安部公房、伊坂幸太郎、筒井康隆といったSF系ラインアップも多数。つまり結構なSFファン。次作はSF風味の青春小説とのこと。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年8月号より)
今月の作品
- 南部芸能事務所
- 「南部芸能事務所」のライブを見に行くことになった新城。たちまち魅了され、その夜のうちに芸人を志す…。弱小プロダクションの芸人たちを、誰も書けない筆致で紡ぐ連作短編集。読書界大注目、新鋭ハタノ4冊目。