【特集】 新島八重の物語
藤本ひとみ『幕末銃姫伝』『維新銃姫伝』 │ エディターズガイド『明治の兄妹 新島八重と山本覚馬』
2013年のNHK大河ドラマが「八重の桜」に決まったと聞いて、いつもならば関連企画をあれこれ考えるのだが、今年は迷わず、この作品を復刻しようと思い浮かんだ。
「会津といえば早乙女貢」――。幕末の会津が一年を通して、それも「大河」というもっとも多くの人が視聴する歴史ドラマで取り上げられる以上、まずその世界を知るには、堅苦しい評伝などではなく、ストレートに「会津人の気持ちになれる」早乙女作品がぴったりではないかと考えたのは必然の流れであった。
本書を紹介する前に、あらためて著者の簡単な経歴に触れてみる。
《1926年、中華民国ハルピンに生まれ、1954年ごろに山本周五郎の知遇を得て創作活動に専念。戦国、幕末、剣豪など幅広いジャンルで活躍する一方、曾祖父が会津藩士で戊辰戦争を戦ったことから、とくに会津藩への思い入れが強く、1970年より「歴史読本」誌上でライフワークというべき『会津士魂』(全13巻)を連載開始。『続会津士魂』(全8巻)を含め、2001年に完結。2008年逝去――》
「とくに会津藩に思い入れが強」いのが著者の真骨頂で、その「歴史観」は一貫して会津藩寄りである。薩長は言うに及ばず、場合によっては幕府や奥羽越列藩同盟を結んだ諸藩に対しても厳しく断じる。そのあまりの激しい筆致に、読む側も強制的に会津びいきにならざるを得ず、歴史を俯瞰することは許されない。
まさに小説ならではの醍醐味であるが、なにより著者の作品からは、「勝ったものが本当に正しいのか」「敗れたものにも正義があるのではないか」という歴史と向き合うさいの大切な姿勢が伝わってくる。
さて、そこで本書である。本書はタイトルが示す通り、新政府軍の侵攻によって炎に包まれた会津鶴ヶ城にあって、男装して自ら銃を取って戦った妹・八重と、その八重に多大な影響を与えた文武両道の17歳離れた兄・覚馬の生涯を描く。元々が100枚程度の短編のため、簡潔にまとめられていて読みやすいこともさることながら、兄妹が維新後、肉親や仲間の死を胸に、京都という新たな場所で旧敵たちとも支え合っていくことから、ほかの作品に比べるといくぶん「激しさ」が抑えられていて初心者でも入りやすい。
まず何から読もうかと悩んでいる人に最適の一冊である。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年1月号より)
藤本ひとみ『幕末銃姫伝』『維新銃姫伝』 │ エディターズガイド『明治の兄妹 新島八重と山本覚馬』
Web新刊展望は、情報誌「新刊展望」の一部を掲載したものです。続きは「新刊展望」2013年1月号で!
- 新刊展望 1月号
- 【主な内容】
[まえがき あとがき] 東川篤哉 カブってた話
[特集] 新島八重の物語 藤本ひとみ/鳥越 碧