2014年 3月号
堀江敏幸Toshiyuki Horie
作家活動と並行して、早稲田大学で文芸創作を教える堀江敏幸さん。「昨春引っ越したばかり」という真新しい研究棟の一室は、近代作家の全集からフランス文学の原書まで、たくさんの本であふれている。高層階の、L字型に開かれた窓から抜群の眺望が広がるが、「窓の分、以前より本の置き場が少ないので、片付かないままです」と、「景色よりは書棚」なのだとか。
週に2日から3日をこの部屋で過ごす。「長く人と話したり、学生の書いたものを読んだりすると、その人の“気”をもらってしまうのか、自分のリズムに戻るのに少し時間がかかります。授業の翌日は家でクールダウンし、執筆は日曜日にすることが多いですね」
新刊『戸惑う窓』は、窓という言葉から思い起こす文学、映画、美術といった芸術作品を取り上げたエッセイ集。窓を介して「私」と作品を往還しながら、批評や、時に小説的な趣の溶け込む独自の文体が、読む者の五感を刺激する。「連想に任せて」広がる思索と、言葉で描かれた「眺め」が滋味深い1冊だ。
デスクの左手にはスカイツリー、正面には新宿の高層ビル群が見渡せる。高層階のためか、静けさが漂うフロアは「淋しい感じ」。「できれば早く帰りたいのですが、仕事を片付けてから帰宅したほうが楽だなというときは、ここで集中して終わらせます」。作家・朝井リョウさんも堀江ゼミの卒業生。そのことに触れると、「媒体によって注目のされ方は違いますが、学生それぞれが自分の好みと言葉の傾向を把握し地道に書いているので、安心して見ています」と「先生の顔」をのぞかせた。
(日販発行:月刊「新刊展望」2014年3月号より)
今月の作品
- 戸惑う窓
- 世界の生成に立ち会う窓、虚妄の窓、胸をかきむしるほど透明な窓、球状の窓…。立っても、坐っても、視線を外に向けると、いつか、必ず、何かが起きるような気がする。「私と世界」を静かに映す長篇エッセイ。