2014年 3月号
歴史時代作家クラブ編『新選組出陣』
斬新な切り口が光る、贅沢なアンソロジー
新選組を題材とした作品は、子母澤寛氏、司馬遼太郎氏などの超有名作品から、最近ではコミックスやアニメーションに至るまで数えきれないほどあり、歴史時代小説の読者のみならず「歴女」と呼ばれるうら若き女性たちにも支持されている、老若男女すべてに浸透したテーマと言えるでしょう。そんな中、王道から新味溢れる意欲作まで、こんなにもバラエティー豊かで、題材に挑む姿勢の強い作品集は見たことがありません。作家ひとりひとりが新選組隊士1名にスポットをあて、その一瞬を切り取っていきます。
本書は、歴史時代作家クラブという、2011年に発足した歴史・時代小説作家たちを中心に創立された親睦団体の、初の競作アンソロジーです。人気作家、これからの時代小説を担う気鋭の方々が参加されています。執筆いただいたのは、秋山香乃氏(藤堂平助)/飯島一次氏(山崎 烝)/大久保智弘氏(沖田総司)/岳 真也氏(近藤 勇)/嵯峨野 晶氏(市村鉄之助)/鈴木英治氏(永倉新八)/恂{史氏(土方歳三)/天堂晋助氏(山南敬助)/響 由布子氏(河合耆三郎)。巻末特別企画として「日野市立新選組のふるさと歴史館」で行われた鳥羽亮氏と秋山香乃氏との座談会を収録。
アンソロジーは読者に「もっとたっぷり読みたいのに……」と思われがちだと言われているようですが、本書は津本陽氏の「いままでとちがう隠された方向から光をあてた、切れ味鋭い作品集」という推薦コメントのとおり、短編だからこその凝縮された輝きを放っていると言えます。
会として第1作目の書籍刊行というほかに、昨年、新選組結成150周年を迎え、2つの意味で記念すべき作品です。タイトルからも、今後一層の活躍のため出陣するという意気込みが伝わってくることでしょう。書きつくされたと言われているテーマでも自分ならこう描けるという作家の矜持を感じていただきたいと思います。読後、本作で一番気に入った著者の作品を求めて書店へ走りたくなること請け合いです。
(日販発行:月刊「新刊展望」2014年3月号より)
今月の作品
- 新選組出陣
- 歴史時代作家クラブ編
- 歴史時代作家クラブに所属する作家10名が描く意欲作。鈴木英治、塚本青史、秋山香乃らの執筆陣に加え、座談会には鳥羽亮が登場。新選組誕生151年目に明かされる、隊士たちの宿命の刻。