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第175回 芥川賞・直木賞 ノミネート作品

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地の鳥 天の魚群
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2011年 11月号
『地の鳥 天の魚群』
二十五年目のデビュー作
幻戯書房 名嘉真春紀

奥泉光さんの『地の鳥 天の魚群』は、ずっと気になる小説だった。プロフィールなどでデビュー作としてタイトルを見かけてもこれまで、本で読むことができなかったからだ。

奥泉さんは小説家のみならず、現役の大学教授でもあり、またいとうせいこうさんとのトークイベント「文芸漫談」を定期的に行うなど、ユーモアを交えた語りがとてもうまい。打ち合わせの際も、何度も楽しいお話を聞かせていただいた。高校時代以来、これまで数々のミステリアスな作品を通して抱いていたイメージとのギャップが、印象的だった。

この処女小説は、文芸誌「すばる」の新人賞であるすばる文学賞に応募され、最終選考に残ったものの、惜しくも落選。が、選考委員の推輓もあり、雑誌に掲載された。そのまま名のみ語り継がれた。

偶然だが、今年はデビュー二十五周年にあたる。この作品を初めて読んだ時、驚いた。幻想と悪夢、宗教と暴力、父と子の対立、クラシック音楽、そしてユーモア……ほかの作品とは全然違う。けれど、その後展開される多くのテーマが、ここに凝縮されている。私は興奮した。

主人公は会社員の中年男性。自他ともに認める「平凡人」だが、ある日を境に不可解な出来事にまきこまれてゆく。息子は新興宗教にはまり失踪、娘は身体が動かなくなり入院、自身もやがて─。

読んだばかりの頃、私はこの物語を、非常に救いのない結末だと思った。それから編集作業の中で、何度も読み返した。思いは徐々に変わっていった。

本文中に「その後、絶望は深まりましたか?」という一節がある。「死」と「絶望」も、奥泉作品によく登場する。人気作『ノヴァーリスの引用』は「死が絶対の終焉である」という書き出しだった。
「絶望」は終わりではなく、深まるらしい。深まるとどうなるのだろう。苦境に立ち向かう主人公の姿とともに、その言葉は解き明かせない謎のように、今、ますます新しく、読む者の胸でふくらんでゆく。

(日販発行:月刊「新刊展望」2011年11月号より)

今月の注目本

地の鳥 天の魚群
日常に訪れる夜と夢…。今まで書籍化されていなかった幻の処女長編に、短編2篇を加え、刊行。26年前に発表された作品ながら、テーマは色あせることなく、その後の名作の萌芽が見られる待望の書。
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新刊展望 11月号
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【対談】詩と恋愛小説とノンフィクションと 小手鞠るい/梯久美子
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