2013年 9月号
黒野伸一さん 『経済特区自由村』
「地域活性化エンターテインメント」ともいうべき痛快な農村再生物語『限界集落株式会社』で多くの読者を得た黒野伸一さん。新刊『経済特区自由村』では「エコロジー」「脱マネー」をテーマに掲げた。『限界集落─』に勝るリアリティ、ミステリー要素にも彩られた、エキサイティングなエンタメ系経済小説の誕生である。
会社をリストラされ、大手外食産業ヘルシー☆ファストニッポンが提携するブロイラー養鶏場のオーナーとなった鈴木明男。だがその実態は、隷属下請け業者だった。設備投資のための借金、劣悪な環境、鶏を工業製品のように扱う現場。キレた明男は、ファストニッポンの営業マンに暴力を振るってしまう。殺人の罪に怯え、逃亡した先にたどり着いたのは、人里離れた山奥の神山田村。親切な老婆・こなたに助けられ、村で暮らし始めた明男は、FEE=フリーエコノミー&エコロジーなる団体の存在を知る。脱マネーと自給自足を提唱するコミュニティである。若きカリスマ民人が率いるFEEの目的はどこにあるのか。そして、民人の正体とは─。
格闘家の岬洋子、村の知恵袋こなたばあちゃん、不登校の高校生・雅と彼女の義母、民人の取り巻きたち、各々の理由で神山田村に移住してきた人々。個性豊かな登場人物たちの「エコをめぐる群像劇」でもある。
「エコロジーは以前から書きたかったテーマです。特に震災以降、エコは脱原発とともに声高に叫ばれるようになった。では、真のエコとは何なのか。専門書も読んで自分なりに考えてみました。一言でエコといっても範囲は広い。さまざまな段階があり、人によってそれぞれのエコがあるんですね。たとえば、玄米や有機野菜を食べてヨガやピラティスをすることが果たしてエコですか。あるいは、二酸化炭素排出権取引のどこがエコでしょうか。そんな矛盾も見えてきて、これを総括して小説にしてみようと思ったんです」
FEEのリーダー・民人はエコ原理主義者。モデルは、フリーエコノミストのマーク・ボイルだという。『ぼくはお金を使わずに生きることにした』を著したイギリスの活動家である。
真のエコとは─その問いへの答えは、神山田村の物語を見届けた読者に委ねられることとなる。
「エコは良いこと。けれどもそのレベルは各人で考えましょう。それが結論だと思います。民人のように自給自足を徹底したい人は、それでもいい。ただ、それを人に強制するとおかしくなります。自分なりのエコを少しずつ考えてみる。この物語がその一助になればうれしく思います」
経済小説だからと構える必要はない。老若男女が肩ひじ張らず愉しめる一冊だ。実は、タイトルにも遊び心が潜んでいる。
「アベノミクスが言うところの経済特区は、規制緩和や法人税の優遇措置で投資を促進するもの。そんなマネー推奨の話かと思いきや、“脱マネー”なんですよね(笑)」
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年9月号より)
今月の作品
- 経済特区自由村
- ある男の壮大な計画が始動。昔ながらの農法で自給自足、義務のない暮らし。自由を手にした都会の人々は幸福になれるのか…。大ヒット「限界集落株式会社」の著者が真の「エコ」を問う。