2011年 9月
勝見洋一Yoichi Katsumi
勝見さんのご自宅は、横浜港に程近いマンションの一室。入居時に間取りを含めた大改造を行い、リビングダイニングを拡張した。美術や料理のエッセイ、オーディオ・ビジュアルの評論など多彩なジャンルで活躍する著者だけに、充実した設備のキッチンやオーディオ機器、中国をはじめとする各国の調度品が見事な調和をもってしつらえられている。最も目を引くのが執筆スペースの横にある小部屋風の一角。北京で最後となった遊郭の一室を、壊される前に買ってきて再現したものだ。
著者初めての小説『餞』は、日本人でありながら、北京の下町で古美術商の息子として育った男が主人公。新中国成立前夜に北京を離れた男が、中国に残してきた、女芸人との間にできた息子の許嫁と五輪前の北京で出会う。当時の北京の情景を鮮やかに映し出し、生と死のあわいを幽玄な筆致で描く本作は、「活版印刷」で制作されたことも話題に。「本物の毅然とした存在感を、装幀や活版印刷で手に入れられたのはありがたい話」。五感を刺激する研ぎ澄まされた感性を、ぜひ味わってほしい。
「明け方になって寝て、昼前に目覚めるというのが一番楽なパターンだけど、だいたい十時頃には宅配便なんかでたたき起こされる(笑)」「明け方四時から五時が神様の降りてきてくれる時間。逝った人は(会いたくても)来てくれないね。オカルトであろうとなんであろうと、美しいものだったらあってもいいと思う。ただ美しいものを出せば、もう一方の陰惨な凄まじい世界も出てくる。きっとその辺をずっと書いていくんだろうね。一番わからないから」
(日販発行:月刊「新刊展望」2011年9月号より)