2012年 4月号
『それでも三月は、また』
あの忘れられない日を心に刻む、胸に迫るアンソロジー
あれから一年が経った。まったくの私事で恐縮極まりないが、二〇一一年三月十五日、子供をつれて外出してよいかどうか妻に訊かれた。放射線を慮ってのことである。私は「大丈夫なんじゃないの?」と暢気に答えた。私は自分の返答を悔いる。後々の報道によれば、このときすでに炉心はメルトダウンし、放射性物質を含む雲が関東平野の一部を覆っていた。それからしばらくして、水道水から放射能が検出された。天気予報の後は今日の放射能情報となった。TVは同じCMを繰り返し放送していた。これはSFではない、サイエンス・ノンフィクションだ……。
作家/詩人たちは、あの非日常をどう生き、何を感じ、何を考えていたのだろうか。 あの日から一週間ほど、世界の新聞/雑誌メディアから、日本の作家たちにレポート執筆の依頼が殺到した。世界の眼は、日本が襲われた稀代の厄災と人々の反応を注視していた。テレビやネットを通じて世界中に流れた映像のインパクトは絶大だった。しかし、人々の真の心中を映し出すことは、映像では難しい。
本書所収の十七篇は、すべて三月十一日から五ヵ月の間に書かれた。内外の作家/詩人が、「人間の苦しみ」に真正面から対峙して絞り出すように書いた魂の記録である。谷川俊太郎、多和田葉子、重松清、小川洋子、川上弘美、川上未映子、いしいしんじ、J・D・マクラッチー、池澤夏樹、角田光代、古川日出男、明川哲也、バリー・ユアグロー、佐伯一麦、阿部和重、村上龍、デイヴィッド・ピース(収録順)─。平穏な日常をひっくり返した大災害を目の当たりにした彼らの内奥は、アメリカ(Vintage Books)、イギリス(Harvill Secker)でも同時刊行される。
人間が直面する困難とそれを乗り越えようとする希望は、言語の壁を越えて、今あらためて世界の人々の心に届こうとしている。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年4月号より)
今月の作品
- それでも三月は、また
- 東日本大震災により、甚大な被害を受けた日本列島。福島原発の重大事故との闘いは、今後何十年も続く。大きく魂を揺さぶられた作家たちは、何を感じたのか。あの忘れられない日を心に刻む、胸に迫るアンソロジー。








