2011年 12月
震災後 こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか
『亡国のイージス』をはじめとする、スケールの大きなエンターテインメント小説で人気の福井晴敏さん。『震災後』は、その福井さんが未曾有の大震災から3か月というスピードで連載を始めた、「リアルタイムノンフィクション」ともいうべき作品だ。
野田圭介は、エコ担当として働く平凡な会社員。東京・多摩で元防衛庁職員の父と妻、二人の子どもと暮らしていたが、3月11日に起こった東日本大震災以降、父の周辺には不穏な空気が漂い、息子はネットの世界に閉じ籠もっていく。やがて起こる世間を騒がすある事件。家族の危機に野田はどう立ち向かい、父は子にどんな思いを託すのか─。
祖父、父、子の三世代の葛藤と絆を軸に描かれ、「男の世界がかなりを占めている」という本作。自らも父となり、「子どもがひとり立ちして生きていけるまでは支えていかなくてはならないし、その先の人生も物質的にという意味ではなく、なるたけ豊かなものであってほしい」との思いを強くしたという。一方日本が世界の中の一国である以上、経済的にもいますぐ歩みを止めてしまうわけにはいかない。「次世代に(原発という)リスクを引き渡さないと、その次世代を生かすことができない状況をまずは率直に子どもたちに詫びようと。その上でその現実を大人たちがきちんと引き受けたときに、はじめてこれから何をしよう、何が必要なのだろうということも見えてくるのではないか」と語る。
「男というのは、いまどうしてここに生を受けているのかという理由を何かしら見出さないと、たぶん生きていけない生き物なんですね。だからこそ今回のようなことがあると、自分たちのやってきたことが全て間違いだったのではないかと参ってしまう。一度凹むとなかなか立ち直れないのも男の特徴なので、間違っていた部分もあったかもしれないけれど、自分自身も含めてまたどうやって歩き出すか、それだけを考えて押し出した本です。女性の読者に言えることは、男ってこういうものなのであきらめてくださいということですね(笑)」
それは実作者としての自らが、いま一度「足場」を見出す作業でもあったようだ。「震災前に作られた現代物のフィクションは、全部過去のお話になってしまっている。なぜなら今回の震災で、これまでとは決定的に違ってしまったことがあるから。どう違ったのかということをここで詳らかにしておかないと、この先(創作していく上で)自分自身が迷うかもしれないなと」。そうして「小細工なしに」投げかけられた直截なメッセージは、従来の著者の作品では「戦艦や地球が爆発するのに相当するカタルシス」。「いま自分が感じている不安や怖さの正体が突き止められれば戦いようはある」との言葉通り、地震そのものだけでなく、原発という人災が日本にもたらした傷を直視し、親子という絆が「震災後」を歩き出すための勇気を与えてくれる一冊だ。
(日販発行:月刊「新刊展望」2011年12月号より)
今月の作品
- 震災後 こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか
- 東京に住む平穏な家族を、あの震災が襲った。野田圭介は、3.11以後、元防衛庁職員の父の不穏な様子や、ネットにはまる中学生の息子の心境の変化に戸惑い、翻弄される…。傷ついた魂の再生と挑戦の旅路。