2013年 2月号
矢月秀作Shusaku Yazuki
ハード・アクション『もぐら』シリーズがヒット中だ。裏社会でトラブルシューターとして活躍する元刑事、〈もぐら〉こと影野竜司の物語。竜司の圧倒的な強さ、疾走する荒唐無稽なストーリー、激しいアクション描写が四十〜六十代男性読者の支持を集めている。
もとは一九九八年、ノベルスでの刊行作品。昨年春の文庫化を機に人気を博し、現在シリーズ五作で六十万部を超えた。文庫版では、若い担当編集者と一緒に大改稿を施している。いつもその作業を行うのがここ「ガスト桜上水店」。校正刷りをテーブルに広げて数時間も議論し、アイデアを出し合い、「ほぼ書き下ろし状態」まで書き直す。ディテールを現代に合わせ、性描写を削ってアクションに特化することで、物語はよりヒートアップした。
「物書きの世界に入って数年、いくら書いても売れない、仕事も増えない─十五年前、『もぐら』には当時の自分の怒りをぶつけたんです(笑)。ずっと書きたかったアクション小説。これで辞めてもいいという思いで存分に書いて、スカッとしたのを覚えています」
第六巻『もぐら 戒』を担当編集者(左)と改稿作業中。第七巻への布石が今回の打ち合わせのポイントだ。第四巻『もぐら 醒』ではニフティ・サーブのチャットをオンラインゲームに、第五巻『もぐら 闘』ではES細胞の話題をiPS細胞に置き換えた。「各巻で時事ネタを取り入れたから、その部分は更新する必要がある。でもストーリーの本筋は動かしていません。十五年前と問題自体は変わっていないんですね。良くも悪くもしょせん犯罪はアナログ。アクションだって殴り合いはアナログの極みだし(笑)」
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年2月号より)
今月の作品
- もぐら 闘
- 新宿のビル街で大規模な爆破事件が発生。爆心部にいたのはiPS細胞の実用化に関わる研究員だった。警視庁は“モール”を中心に捜査を開始する。一方、重体の紗由美に付き添い、竜司が滞在する医療施設では小学生の患者が突然姿を消した…