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特集・対談

関連商品

アライバル
世界各国で多数の賞を受賞、世界中に衝撃を与えたグラフィック・ノヴェル。漫画でもコミックでもない、素晴らしいセンス・オブ・ワンダーに満ちた新しい「文字のない本」。
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遠い町から来た話
誰にも愛されなかった物からペットを手作りすることや、ちっちゃな交換留学生のこと。平凡な毎日の奇妙な断片に光を当て、多様なスタイルの絵と共に紡いだ珠玉の名作短編集。
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ロスト・シング
少年が海辺で出会った迷子は大きくて赤いだるまストーブみたいな変な生き物。でも誰もその存在に気づかない……著者の絵本デビュー作にしてアカデミー賞受賞アニメ映画原作。
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鳥の王さま
風呂場に棲むもの、灯油コアラ。すべてショーン・タン独自のユニークな世界に生きるものたち。世界中の読者を魅了している作家の想像力の源泉を集めた魅惑のスケッチブック!
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エリック
ホームステイにやってきたエリックを、ぼくらはあれやこれやともてなすものの、興味をひくのは小さな変てこなものばかり。著者の優しいまなざしが注がれた素敵な贈り物。
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レッドツリー
沈みそうな紙の船でただよう主人公。湖面に浮く灰色の枯葉の中に、赤い木の葉が、1枚…。日本で初めて翻訳されたショーン・タンの絵本。行きづまって、くじけそうになる時に開いてほしい1冊。
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2012年 9月号

【特集】 ショーン・タンの世界

今、世界でもっとも注目されている絵本作家のひとり、ショーン・タン。2011年3月、代表作である『アライバル』の日本版が河出書房新社より刊行され、多くの読者を魅了しました。今年は彼の翻訳新刊が同社から続々登場です。ショーン・タンの深い深い世界を、ぜひ知ってください。

【インタビュー】 岸本佐知子さん ショーン・タンを翻訳する幸せ

岸本佐知子 Sachiko Kishimoto
一九六〇年生まれ。翻訳家。上智大学文学部英文学科卒。訳書にM・ジュライ『いちばんここに似合う人』、L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、J・ウィンターソン『灯台守の話』ほか多数。編訳書に『変愛小説集』『居心地の悪い部屋』ほか、著書に『気になる部分』『ねにもつタイプ』(第二十三回講談社エッセイ賞)等がある。

運命の出会い!?

『アライバル』より
アライバル』より(クリックで拡大します)
―河出書房新社から現在刊行中のショーン・タン作品は全点、岸本佐知子さんが翻訳を担当されています(『アライバル』は「文字のない絵本」で、小林美幸さんがあとがきページを翻訳している)。本インタビューでは、翻訳者として、またショーン・タンの一ファンとしても、お話しいただければと思います。はじめに、作品との出会いをお聞かせください。

岸本 『アライバル』が最初です。2006年に出版されて間もない頃かな、ネットで原書の表紙を見て、「おっ」と思ってすぐ買いました。洋書はほとんどジャケ買いするんです。内容を読んでみたら、すごくおもしろい。でも訳すところがないなあと思って(笑)、そのときはそのままになっていました。
その後何年かして、河出書房新社の編集の方から「この本に興味ありませんか」と見せていただいたのが『遠い町から来た話』。作者は『アライバル』の人だと聞いて、これはもう運命かもしれないと思いました。『遠い町から来た話』も読むとすごくおもしろい。それで、ぜひ私が翻訳します!と言いました。

―ショーン・タン作品のどこが好きですか。魅力はどんなところにあると思いますか。

岸本 なんといっても、まずは絵だと思います。あたたかくて、ほのぼのしていて、一見優しいタッチなんですが、じつはけっこう毒や苦さやダークなものも隠している。そしてユーモアのセンスが秀逸で、遊び心がある。そういういろんな要素のブレンド具合が、すごくぴったりきたという感じでしょうか。
本当にね、恐ろしく絵がうまいと思います、素人の私が言うのも失礼ですけど(笑)。『遠い町から来た話』を見るとよくわかりますが、同一人物が描いたのかと思うくらい、本当にいろんなタッチの絵があります。表紙は浮世絵風だし、漫画っぽい絵からかなり写実的な絵まで、使っている画材もいろいろ、ペン画あり、油絵あり。物語の内容や雰囲気にあわせて、一つ一つ作風をがらりと変えてくる。おもしろいことをする人だなあと思います。私、おもしろいことをする人が大好きなんです。

絵に込められた情報量

―それでは、各作品についてうかがっていきます。まず『アライバル』。日本版の帯には岸本さんの〈翻訳したくて、翻訳できなくて、地団駄をふみました〉という言葉があります。

岸本 それが言えたからまあいいや、と思っています(笑)。
文字のない絵本はこれまでもあったでしょうけれど、ここまで見事にやられたら、もうひれ伏すしかないという感じですね。同じストーリーを、たとえばびっしりの文字で500ページの大作小説に仕立てることもできると思います。でもそれだと読む人も限られるし、最短距離では伝わらない。
戦争なのか、民族的な弾圧なのか、ともかく何かのっぴきならない事情のためにヨーロッパあたりから逃げて、おそらくアメリカに行った移民の物語なのかなというのはなんとなくわかるものの、どこの国とははっきりわからない。無国籍。ただ主人公の顔はどことなくアジア的で、だから日本人の私たちにも親近感が持てる。
ショーン・タンにとって、〈居場所〉や〈帰属〉は大きなテーマです。今の若い世代の日本人は、自分が生まれ育った場所、見慣れた場所が突然なくなるかもしれないということを、昨年3月11日のあの地震と津波によって初めて意識したのではないかと思います。だから一層、この本は私たちに沁みたのかもしれません。ただ、この問題は本来、普遍的なものですね。『アライバル』は、普遍的な、みんなの物語になるように、すごく意識して作られていると思います。どこの国のものともつかないような文字、この世のものではないような動物。それは逆に言えば、どこにでもあるものなんです。

―そういう主題や細部が、繰り返して読めば読むほど、だんだん深くわかってくるのが感動的です。

岸本 ショーン・タンはこの本を描くために膨大な量の調査やスケッチをしていて、そのメイキングだけで別に本を一冊作ってしまっているほどなんですね。だから、最初は物語の強さに引っ張られてワーッと一気に読んで圧倒されるんですが、その後もう一度じっくり一コマ一コマを見直すと、情報量の多さに驚かされる。「あ、この絵のここは、こういう意味だったんだ」というふうに、読むたびに発見がある。だから何度でも繰り返して楽しめるんですね。
この人は、絵で言葉を表現し、言葉で絵を表現する。絵と文字が同じくらいの力を持っているんです。絵だけの本の『アライバル』に、すごく言葉を、物語を感じるでしょう。文字はなくとも言葉はある物語なのだと思います。

絵と文字、二つの旋律

『遠い町から来た話』より
遠い町から来た話』より(クリックで拡大します)
―『遠い町から来た話』は、文字もたくさんある短編集です。翻訳されていかがでしたか。

岸本 すごく難しかったです。絵本、絵の入った本の翻訳は初めてだったので。始める前は、「文字量は少ないし、絵があるから楽勝さ」なんて思っていたんです(笑)。普段は、文章から絵柄やシーンを想像して、自分の中でビジュアル化して訳すという作業をしますが、今回はビジュアルが既にあるわけだから、手間が省けるなと。ところが実際は全然違って、むしろ苦労が倍でした。ほかの絵本はわかりませんが、少なくともこの本においては、絵は決して文章の説明ではないんです。絵も文章みたいで、文章が絵みたい。だから訳していてすごくやりにくいんです。普段は行間にダイブしていけば、そこにビジュアル世界があるというイメージですが、これはビジュアルが物語を語りかけてくるし、それとは別に文字の物語があって、二つの物語を並行して訳しているような感じでした。今までで一番苦しんだかもしれないというくらい難しい翻訳でした。これはこの作家固有のものなのか、私の問題なのか、あるいは絵本とはそういうものなのか、その辺はまだよくわかりませんが。
彼が書いたエッセイによると、物語はだいたいいつも絵から生まれるのだそうです。心にぽこっと浮かんだイメージを紙に描きとめて、それでたいていは満足してしまうんだけれど、たまに絵の後ろに物語が隠れているような気がして、それが何だか知りたい一心で、物語を作ってしまうのだと。絵が先にあって、派生してきた物語。絵から物語が生えている。たとえるなら、絵は「種」で、言葉は「花」。種と花は同じ一つのものでありながら、全然ちがうものでもあり……という感じでしょうか。
この本には旋律が二つあって、読者は二種類の物語を同時に読んでいる、そんな風にも言えるかもしれません。もしかしたら、字を見ないで絵だけを見て、自分で物語を想像してもいいのかもしれません。人によって別の物語が生えることもあると思うんです。
この本ですごく楽しかったのは、詩のページ。原書がいろんな筆跡の文字なので、日本版にも生かそうと、たくさんの人に協力してもらいました。私ももちろん書いたし、河出書房新社の皆さん、近所のお店の人、柴田元幸さん、道尾秀介さん……。いつも翻訳する小説と違って、ビジュアル部分にまで踏み込んで考えるのは楽しかったです。

インタビューはまだまだ続きます!続きは「新刊展望」2012年9月号でお楽しみください!

(日販発行:月刊「新刊展望」2012年9月号より)

Web新刊展望は、情報誌「新刊展望」の一部を掲載したものです。続きは「新刊展望」2012年9月号で!

新刊展望 9月号 発売中!
【主な内容】
[懐想] 赤坂真理 忘れ去られた者たちと私たち
[特集] ショーン・タンの世界 岸本佐知子/金原瑞人
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