2012年 9月号
角幡唯介Yusuke Kakuhata
職業、「ノンフィクション作家、探検家」。生命が危険に晒されるような探検旅行をして、ノンフィクション作品で表現する。そんな角幡唯介さんの「創作の現場」は、やっぱりワイルドなのである。六畳一間のアパート。本、雑誌、新聞、資料の山が床を埋め、戸のない押入れに登山や探検旅行で使う装備類が無造作に突っ込まれている。部屋の隅に小さな机。執筆道具は「調子が悪い」ノートパソコン。
『探検家、36歳の憂鬱』は初のエッセイ集。「長編ノンフィクションでは書けなかった自分の思いみたいなものが吐き出せて、すっきりした(笑)」。冒険や表現について、あるいは生と死について、大いに思索し、綴る。「僕は結構うだうだ考えるほうなんです。でも現場では行動するのに必死で、あまり考えない。探検に行って帰ってきて、地元のスーパーで買物したり散歩やランニング中に、こんなこと を考えています」。既刊の長編ノンフィクションと併読し、その作品世界をより深く味わうのもおすすめだ。「探検家・角幡唯介」に惚れる老若男女急増!を予感させる一冊。
「住む部屋なんて基本的にどこでもいいんです。たまたまここが不動産屋に案内された一軒目の物件だったというだけ」。木造二階建て、トイレは共同。「ただし風呂付きが条件。週末、山に行くことが多いので。夜中に帰ってきて銭湯が終わっていて風呂に入れない……のはキツいでしょう」。机まわりの壁には、北極の地図が数枚。写真右手の床に一触即発で雪崩を起こしそうな本の山脈が聳えている。中央奥の背の高い器具は、アイスクライミングのためのトレーニングツール。これで懸垂をする。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年9月号より)
今月の作品
- 探検家、36歳の憂鬱
- なぜ僕は自ら死に近づいていくのか。なぜ探検家はもてないのか、探検家の性とジレンマ、雪崩に遭い感じた死、富士登山に思うことなど。冒険とは何なのか、角幡唯介は何者なのかを知れる、珠玉の8本のエッセイ。