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マリーについての本当の話

La ve´rite´ sur Marie.

講談社
ジャン・フィリップ・トゥサン 野崎歓 

価格
1,980円(本体1,800円+税)
発行年月
2013年11月
判型
B6
ISBN
9784062186698

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ユーモアとエロスのトゥーサンが帰ってきた!Tokyo/Parisが舞台のロマンス。小説の幸福がここにある。息をのむ美しさ! あの灼熱の夜の陰鬱な時間のことを、あとから考えてみてわかったのだが、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手とだが。あの夜、マリーとぼくは同じ時刻に――あの夏初めての猛暑で、突然襲ってきた熱波のためパリの気温は三日続けて三十八度を記録し、最低気温も三十度を下回ることはなかった――、パリ市内、直線距離にして一キロほどしか離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、宵の内にせよ、もっと夜が更けてからにせよ、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしその想像を超えた出来事が起こってしまったのである。ぼくらはなんと夜明け前に出会い、アパルトマンの暗い、散らかった廊下で束の間、抱きあいさえした。マリーがぼくらの家に戻った時刻から判断して(いや、いまや〈彼女の家〉というべきなのだろう、なぜならぼくらが一緒に暮さなくなってもう四カ月たつのだから)、またぼくが彼女と別れてから移り住んだ、手狭な2DKに戻った時刻から判断しても――ただしぼくは一人ではなく連れがいたが、だれと一緒だったかはどうでもいい、それは問題ではない――、マリーとぼくがこの夜、パリで同時にセックスをしていたのは、午前一時二十分から、遅くとも一時三十分ごろだったと考えられる。二人とも軽くアルコールが入っていて、薄暗がりの中で体をほてらせ、大きく開けた窓から風はそよとも吹いてこなかった。外気は重苦しく淀み、嵐をはらみ、ほとんど熱を帯びていて、涼気をもたらすというよりもじわじわと蒸し暑くのしかかってきて、それがむしろこちらの身体に力を与えてくれるかのようだった。そして深夜二時前のこと――電話が鳴った。それは確かだ。電話が鳴ったときにぼくは時計を見たからだ。しかしその夜のできごとの時間経過については、慎重を期したいと思う。何といっても事態は一人の人物の運命、あるいはその死にかかわっていた。彼が命を取りとめるかどうかはかなりのあいだ、わからないままだったのである。

内容情報
[BOOKデータベースより]

あの灼熱の夜の陰鬱な時間のことをあとから考えてみてわかったのだけれど、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手とだが。その夜、マリーとぼくは同じ時刻に(略)、パリ市内の直線距離にして一キロも離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、宵の内であれ、もっと夜が更けてからであれ、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしそんな想像を超えた出来事が起こったのである。上品なエロティシズム、おしゃれなユーモア、かがやく生命力…「ぼく」が語る、彼女との大人な関係。いまフランスで最も重要な作家から届いた“本物の小説”。

[日販商品データベースより]

あの灼熱の夜のことを、あとから考えてみてわかったのだが、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手と。あの夜、マリーとぼくは同じ時刻に、パリ市内、直線距離にして一キロほどしか離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、もっと夜が更けてから、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしその想像を超えた出来事が起こってしまったのである…


あの灼熱の夜の陰鬱な時間のことを、あとから考えてみてわかったのだが、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手とだが。あの夜、マリーとぼくは同じ時刻に――あの夏初めての猛暑で、突然襲ってきた熱波のためパリの気温は三日続けて三十八度を記録し、最低気温も三十度を下回ることはなかった――、パリ市内、直線距離にして一キロほどしか離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、宵の内にせよ、もっと夜が更けてからにせよ、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしその想像を超えた出来事が起こってしまったのである。ぼくらはなんと夜明け前に出会い、アパルトマンの暗い、散らかった廊下で束の間、抱きあいさえした。マリーがぼくらの家に戻った時刻から判断して(いや、いまや〈彼女の家〉というべきなのだろう、なぜならぼくらが一緒に暮さなくなってもう四カ月たつのだから)、またぼくが彼女と別れてから移り住んだ、手狭な2DKに戻った時刻から判断しても――ただしぼくは一人ではなく連れがいたが、だれと一緒だったかはどうでもいい、それは問題ではない――、マリーとぼくがこの夜、パリで同時にセックスをしていたのは、午前一時二十分から、遅くとも一時三十分ごろだったと考えられる。二人とも軽くアルコールが入っていて、薄暗がりの中で体をほてらせ、大きく開けた窓から風はそよとも吹いてこなかった。外気は重苦しく淀み、嵐をはらみ、ほとんど熱を帯びていて、涼気をもたらすというよりもじわじわと蒸し暑くのしかかってきて、それがむしろこちらの身体に力を与えてくれるかのようだった。そして深夜二時前のこと――電話が鳴った。それは確かだ。電話が鳴ったときにぼくは時計を見たからだ。しかしその夜のできごとの時間経過については、慎重を期したいと思う。何といっても事態は一人の人物の運命、あるいはその死にかかわっていた。彼が命を取りとめるかどうかはかなりのあいだ、わからないままだったのである。

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