日本文化と宗教
「和」の伝統の功罪
著者は「宗教間対話」を主題とするフランクフルト大学主宰の集中講義を行った。日本社会の「和」についての講義に対する,学生や教授陣,市民など多くのドイツ人受講生との質疑応答を通して,日本とは違い,個人の主体性や社会倫理を重んずるキリスト教文化圏の特徴を痛感した。
今日,価値観や宗教観が多様化し,交通手段や情報システムの発達で異文化圏の人々が互いに交流する機会が増えた。それとともに社会的な危機意識が高まり,異文化間における対話の重要性が強まっている。本書は社会の規範を支える「宗教」の力と,個人をつなぐ「和」の原理を,キリスト教を踏まえて分かり易く叙述する。個人や社会,そして宗教に関心のある読者には必読の一書である。
第T部では,諸宗教が共存するわが国の特殊な文化的風土を考察する。日本の民族宗教である神道,日本化した仏教,政治哲学の流れで受容された儒教,戦国時代のキリスト教宣教師やキリシタンへの迫害,細川ガラシアや「日本のシンドラー」と呼ばれた杉原千畝など,多くの事例をもとに,日本と宗教の関わりを考える。
第U部では,宗教を生活の視点から見直す。日本人として相応しい人間像と宗教の関わり,倫理観や死生観,そして高齢者や「いのちの選別」という現代的な問題を扱う。
第V部では,フェミニスト神学,ヒロシマ・ナガサキ・フクシマの平和構築,諸宗教とキリスト教との対話などから,わが国が抱える宗教の役割や問題点を明らかにする。
著者はキリスト教をはじめ,わが国の宗教を広範に考察して,「和」と信心とともに生きてきた日本人の姿を通して「宗教の意味」や「人間とはなにか?」を問いかける。