生と死の物語
古典・名作にみる〈この世〉と〈あの世〉
近代の文学ではもっぱら現世の人生がテーマになった。しかし、人の来し方行く末をみるなら現世だけではすまない。おのずから死生観が問われる。
死後の霊魂や来世が現実にあるのかどうか、それはわからない。しかし、死後の世界の物語は強く人の心をひきつける。近年の漫画やアニメでも、死霊や妖怪などの冥界・異界ものに人気がある。そのなかで、あの世の話は極楽より地獄のほうがおもしろいともいわれるのだが、古典文学では地獄よりも極楽浄土への思いが強い。来世に救いを求めるなら当然である。
また、寺院をみれば、阿弥陀仏をまつる寺が多く、閻魔堂は少ない。平等院鳳凰堂のような華麗な阿弥陀堂もある。美術史の主題になっているのも、圧倒的に阿弥陀仏と極楽浄土である。
本書で取り上げた『万葉集』から近現代の作品にも、そうした思いがこめられている。