市区町村の電子申請
eーJapanから自治体DXまでの表層的な政策推進
我が国における電子申請(行政手続オンライン化)の取組みは、1990年代半ばから各種政府IT戦略・指針等の策定を通じてその推進が図られ、2000年に決定された「IT基本戦略」では、国・地方公共団体が提供する全ての手続のオンライン化の実現により、「自宅や職場からインターネットを経由し、実質的にすべての行政手続の受付が24時間可能となり、国民や企業の利便性が飛躍的に向上する」とされた。
地方公共団体における電子申請の取組みについても、手続の電子申請受付の実現のほか住民等利用者の利便性向上や業務の効率化等を目指し、国は各種政府IT戦略・指針等を通じて政策を講じ、その促進を図る流れが2000年代・2010年代を通じて繰り返されてきた。さらに、各種政府IT戦略・指針等の策定に留まらず、地方公共団体が電子申請受付を行うために必要なシステム整備への国の積極的な関与が見られ、共同アウトソーシングによる汎用受付システムの整備を地方公共団体に促したほか、マイナンバー制度の開始にあたっては、電子申請機能を搭載したマイナポータルを構築し、市区町村による利用を促進した。
しかし、市区町村の電子申請をめぐっては、長年にわたって利用率や利便性等の課題が繰り返し指摘され、2020年春からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う国や地方公共団体等による一連の対応の過程においては、地方公共団体における電子申請等のデジタル化の遅れが露呈したとされる。
こうした経過に対して、電子申請の利用率が低く利用者の利便性向上への寄与が見られず、むしろ利用者の利便性が低下する例が確認されるとともに、電子申請が地方公共団体の業務効率化につながらず、逆に電子申請の存在が業務負荷の増大になっているといった指摘が見られた。現に、地方公共団体では申請データの効率的な処理等の電子申請を通じた業務効率化は後回しとなり、紙申請を踏襲した単に電子的な申請が可能になるだけの電子申請の推進に留まっており、その帰結が指摘のような状況を引き起こしたと言っても過言ではないように思われる。
つまり、2000年代・2010年代を通じて国が推進した地方公共団体における電子申請は、言わば「表層的な電子申請」の実現 に留まっていたと考えられるが、地方公共団体において長年にわたって「表層的な電子申請」の実現が目的化した背景はどのようなものなのだろうか。この問題意識のもと、本書では地方公共団体のうち市区町村を対象にして研究を進めていく。単純な団体の数で考えれば国や都道府県よりも圧倒的に多く、電子申請受付システム等の整備や取組みを全市区町村であまねく一定程度以上進めていくことは、国や47都道府県それぞれであまねく進めていくことに比べて遥かに容易ではないと言え、そうした状況の中でどのようにして市区町村の電子申請の取組みは進められ、どのようにして「表層的な電子申請」という結果に至ったのか明らかにする。