農業法研究 60(2024年)
所有者不明土地問題は、東日本大震災の被災地復興の過程で顕在化し、大きな社会問題として取り上げられるようになった。所有者不明土地が「登記に真の所有者が登記されていない状態」と定義されたことにより、変則型登記の多い慣習的な入会林野は、その全面積が所有者不明土地と看做され、所有者不明土地問題と一緒くたに論じられるようになった。コンプライアンス型法化社会の到来により、登記によって真の所有者を確認する手続が急増する現代においては、入会林野の利用は一層困難な状況に陥りつつある。
60号では、コンプライアンス型法化社会に相応しい、慣習的権利としての入会権の登記のあり方と入会集団の法的組織化の考究、法人格のない組合に権利能力を容認するドイツの法改正を参照した、権利能力のない団体の入会権登記制度導入の検討、入会団体が認可地縁団体化することで入会地の権利主体となる事例の整理、また鹿児島県における所有者不明農地に対する先駆的取組や、大阪でのNPOによる里山保全活動の検討などを行う。