ロバート・トレンズと国際貿易
リカードからJ・S・ミルへの架橋
ロバート・トレンズ。経済思想家でもなければ、今やその名を知る者はいないだろう。だが、国際経済学の歴史におけるトレンズの足跡は無視しえない。標準的な教科書に見られるリカード・モデル(比較優位の貿易理論)は、リカードを出所としてJ・S・ミルが完成させたものと考えられているが、その変遷過程において一役買い、同時にこのモデルをリカードの創造物たらしめるべく後世の人びとを誘ったのはトレンズである。また、昨今世間を騒がせている相互関税や報復関税といった貿易政策をめぐる議論は、一九世紀前半の互恵主義論争にその起源をもつが、この論争の中心的役割を果たしたのもトレンズである。本書は、古典派経済学におけるトレンズの功罪を描き出し、国際経済学の歴史に埋もれた彼の仕事に再び光を当てる試みである。