島崎藤村と創作の論理
一九二〇ー三〇年代の〈社会〉と「役」の思想
父・島崎正樹や姉・高瀬その、そして畏友・北村透谷。島崎藤村の近傍には自らにとって固有の「人生の意味」を求めながら、さまざまなしがらみによって叶わずに死んでいった人びとが少なくなかった。己の私生活や身のまわりの出来事を小説のなかに描いてきたとされる藤村だが、〈社会〉とそこに生活を営む大衆の存在へと目が向けられるようになった一九二〇年前後から、その創作観にはある変化が見られる。本書ではこの変化を、自分とは異なる何者かを演じる「役」の思想としてとらえ、これまで見えていなかった藤村文学と同時代の社会思想の交渉に光を当てる。