霊性の人間学
本書の目的は霊性をその認識機能によって把握することである。それは歴史的にはオリゲネス以来の「感性・理性・霊性」の三分法として展開した。この課題を解明するために,カント『純粋理性批判』の認識論の方法と,カッシーラーの象徴主義の方法を活用した。こうして個人の特殊な霊性思想ではなく,霊性の一般的作用を認識論として考察するためにヨーロッパ思想史の歩みのなかで歴史的な資料を使ってより組織的に展開した。
心の働きである精神は,感性や理性により人間的な生き方を形成する。この精神の作用には永遠者や絶対者を求める宗教的な作用も含まれ,「心のアンテナ」と呼ぶ。
「霊性」とは感性や理性と同じく,人間のもつ独自の作用であり,神を感得する認識の機能を意味する。「有限は無限を捉えることはできない」が「有限者は無限者を感得することができる」。なぜならそれは霊もしくは霊性の機能によるからである。
霊性機能が人間のあり方にどのように働きかけ,それを通して人間とは何かを解明するのが「霊性の人間学」である。
今日,霊性の機能障害から多くの人が精神の病に罹っている。現代の精神医学も人間学の三分法「身体・魂・霊」を採用し,霊性に注目して医学的人間学を提唱している。
さらに情報技術の躍進は思考の領域にまで進出し,同時に膨大な個人による情報が世界中に拡散している。人々は嘘と真実が見分けられないまま情報の海を渡り,溺れ,時に生命の真実や社会から見放される。宗教を否定した近代。私たちの未来には新たな霊性の時代が迫っている。