菌の器 THE BACTERIA VESSEL
この本は、近代建築の現場で己の思想と対話し続けてきた、ひとりの建築家が、
「菌の器」である建築を、菌の生成流転と移動に重ねてイメージした結果、
環境の中にも重層的に健康価値をインストールしてみたらどうだろう、
という疑問からはじまった旅であり、
私達の住環境の基本になるであろう価値観の変化を専門家と共に探り合い、
うつしあう旅の過程の記録と記憶である。
「はじめに」より____
例えば、人はなぜ旅をするのか。新しい場所へ足を運ぶとき、風
景や文化に触れること以上に、私たちの体内外に共生する菌たち
が多様性を求めているのではないかと考えることができる。
同様に、人が握手をする理由やキスを交わす理由もまた、
単なる人間同士の交流にとどまらず、
微生物視点から解釈すれば、新しい接触を通じて
自らの多様性を広げようとする本能的な行動に見える。
今、私たちが置かれている環境が
「自分にとって心地良い」と感じるかどうかを通り越し、
「自分を構成する菌にとって心地良いか」を問い直すべきだと考えている。
菌にとって快適な環境を意識することは、
人間としての快適さの再定義であり、
同時に新たな視点から環境を考察する試みでもある。
菌の存在は、これまで無視されがちだった空間の価値を再評価するきっかけとなる。
そして、菌を取り巻く環境を見直すことによって、
人間と菌の双方にとってより良い共生の形を模索することができるはずだ。