大作物語
「家がしんどい」子どもたちを支える社会的養護のリアル
安全で幸福なはずの「家」が「しんどい」。
そんな子どもの一人だった青年を主役に「養護」の意味を問う教育ドキュメンタリー
「貧困」と「孤立」が忍び寄る現代社会、過酷な家庭環境のなかで困難を抱え、「家がしんどい」という子どもたちが増加の一途をたどっている。本書は、そんな子どもたちを支える社会的養護のリアルを描いたものである。
本書の主人公・大作が、「差別を忘れない場所」として選んだ職場が児童養護施設である。そこは現代社会における別世界であり、そこに暮らす子どもたちは言葉にならない壮絶な過去や思いを抱えている。大作も小学生のころからいじめ、不登校、暴力、非行、児童養護施設への入所といった経験をしてきた。「読み書き」のできなかった彼は20歳を過ぎてから定時制高校に入学し、そこで出会った教員とともに過去を振り返り、「自分史」を綴ることで「言葉」や「差別」に目覚め、未来に向けた夢や目標を抱くようになる。そして現在、自身がかつて入所していた児童養護施設の職員として、「血がつながっていなくても家族」をモットーに、子どもたち一人ひとりにとことん寄り添いながら「自分史」づくりを支えている。
「誰にとっても、独りで考え、問題に向き合うということはとても難しい。だから常に寄り添い、話を聞き、共感してくれる存在が必要となるが、子どもには触れられたくない部分や向き合いたくない部分もある。そういう部分にも目を配れる存在となれるか否かが、施設職員に求められている技量のように思える」と主人公は語っている。
「貧困」と「孤立」が広がる社会において、私たちは本書の登場人物たちから様々なことを学ぶだろう。特に、失敗や挫折の「当事者」が語る言葉は、不登校やいじめ、発達障がいや知的障がいなどといった教育課題に向き合うための多大なヒントを与えてくれる。そして何よりも、「家がしんどい」子どもたちに「とことん寄り添う」ことの大切さを教えてくれる。(いそむら・もとのぶ)